爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている
経済失政を招いた政治腐敗は、今回指摘されるような政府や行政の機能不全の原因ともなる。政治家や省庁の人材登用は、能力よりも宗派や派閥を重視する縁故採用や情実人事という、レバノン政治の上から末端まで浸透する政治体質に基づいて行われているとの不満が多い。だから、政府や行政の仕事は、国民の利益や安全が軽視され、宗派や派閥、個人の利益や利害が優先されがち。
政府組織の中でも、ベイルートの港や税関は、違法な武器も含めて非合法的に動くことがあり、「多くの派閥やヒズボラ系を含めた政治家らが支配する、レバノンの中でも最も腐敗した、うまみのある組織の1つとして知られている」(レバノン紙アンナハール)。
民営化や資金調達の一貫として、港の管理権を海外の企業に売却する可能性も浮上していたとされるが、今回の事件で改革に向けた海外からの投資はますます停滞しそうだ。
政治家や派閥は、港など国のインフラや設備、組織を、利益を吸い上げるために利用するうえ、インフラの劣化も激しい。電力供給や安全性の高い水道の維持などの公的なサービスもままならず、国民は発電機を買うといった自衛策で猛暑を乗り切るしかない。独占的な通信事業によって携帯電話代は高く、利益は有力一族や財界重鎮に吸い上げられる。
政治腐敗に反発したデモでハリリ首相が昨年10月に辞任したものの、その後も改革が進む気配はない。経済危機打開へ国際通貨基金(IMF)に支援を仰いでいるものの、国際支援を受けるための改革は進まず、爆発が起きた前日の3日には、政治家同士の足の引っ張り合いに辟易したとして、ヒッティ外相が辞任している。
コロナ禍で海外移住の道も閉ざされる
レバノンの政治腐敗は構造的な問題があり、一朝一夕には解決しない。このため、最近のデモでは、銀行が襲撃されるなどデモ隊が暴徒化する様相も呈している。
レバノン政治に詳しい専門家は「レバノン政治は構造的問題を抱えており、政治腐敗や宗派のボスを批判しても問題は解決しない。実際にデモ隊が求めるものを実行するにしても、どこから行っていいか分からない状況だ。銀行襲撃に走るなど明確な批判の対象が見えなくなっている」と分析する。
レバノン人たちは歴史的に、困難に直面した時には海外に活路を見出してきた。日本から逃亡したカルロス・ゴーン被告の先祖も、こうした経緯でブラジルに渡っている。レバノンでは海外に移民した国民が自国に住む国民の数よりも多いが、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限や世界的な景気後退により、移住という選択肢も今は取りづらい。
こうした中でも、レバノン国民は、爆発によって家を追われた人々に空き家や別荘、空き部屋を提供するなど、政府に頼れないために宗派を越えた結束力を見せている。ある市民は「今回の事件の背後に政治腐敗や怠慢があるのは明らか。まずは調査結果を見守りたい」と冷静を努める。ただ、レバノンの政治構造や体質は容易に変わらないとの見方が強い。レバノンの危機は、ますます深刻化することになりそうだ。
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