受診抑制は高齢者の受診の多い内科でも深刻だ。東京・練馬区のよしだ内科クリニックでは、「長期処方の増加に伴う受診回数減少の影響が大きい」(吉田章院長)という。
吉田院長によれば、診療報酬は緊急事態宣言が解除された後の6、7月とも前年同月比3割近い減少が続いた。その要因について吉田院長は「ソーシャルディスタンスの徹底によって、風邪など発熱性の疾患が減っていることに加え、長期処方の増加によるところが大きい」と説明する。
従来、2週間または1カ月に1度の割合での通院が基本だったが、「通院回数を減らしたい」という患者の要請による1カ月超の長期処方が4割を占めるまでに増加。「高血圧や糖尿病などの慢性疾患の患者を中心に受診頻度が大きく減っている」(吉田院長)。
通院回数の減少は患者にとって医療費の減少につながる反面、健康状態の管理がおろそかになるおそれもある。「通院の自粛によって、血圧や血糖値の上昇など健康状態が悪化する患者も増え始めている」と吉田院長は指摘する。
診療所には政策の恩恵が乏しい
受診の抑制は、診療所の経営にも大きなダメージを与えている。
東京保険医協会が、東京都内の無床診療所に実施した会員向けアンケート調査によれば、6月上旬の保険診療収入について、耳鼻咽喉科で前年同期比「5割減」と答えたのが全体の31%。「6割減」「7割以上減」を合わせると77%にも達した。小児科でも「5割減」が22.7%。同様に「6割減」「7割以上減」との合計では65%という高率だ。内科でも3~5割減は、合計で55%に上る。
同アンケート調査では、「緊急事態宣言後、新規の患者がほとんど来なくなった」「このままだと来年早々に閉院を検討せざるをえない」(いずれも内科診療所)といった悲痛な声が相次ぐ。
また、政府が推奨するオンライン診療については「点数が低く投資額と需要人数を考えると赤字になってしまう」(内科)などといい、診療報酬点数の引き上げや減収分の補填を求める声も少なくない。
政府の2次補正予算では医療・福祉向けに約2兆7000億円の予算が確保されたが、その多くはコロナ患者の入院を受け入れる病院に振り向けられている。同予算とは別に、収入が減少した医療機関には持続化給付金や家賃支援給付金も用意されているが、「いずれも減収率などのハードルが高い」(工藤光輝・全国保険医団体連合会事務局次長)。
神奈川県保険医協会はコロナ禍が収束するまでの時限的な措置として、患者の負担を増やさずに、減収となった医療機関を対象に診療報酬単価を補正する方策を提案している。
受診抑制が続いた場合、今後、資金繰りに行き詰まる診療所が相次ぐ可能性がある。国民皆保険制度を維持するためにも、コロナ患者を受け入れる医療機関のみならず、医療全体に目配りした実効性のある対策が必要だ。
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