「クルーズ船集団感染」研究で突き止めた真犯人 ダイヤモンド・プリンセスを襲った空気感染

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今回の研究では、ハーバード大学公衆衛生大学院の室内空気研究者、パーハム・アジミ氏率いるチームが、物理的な空間と感染の状況が細かく記録されているダイヤモンド・プリンセス号での集団感染を新たな手法で分析している。

ウイルスがどのようにして船全体に広がっていったのか、考えられるシナリオについて繰り返されたシミュレーションは2万回以上。各シミュレーションは、乗客・乗員がキャビンやデッキ、カフェテリアで過ごした平均時間といった社会的な交流パターンのほか、ウイルスが物体表面で生存できる時間などの想定を変えながら行われた。

10ミクロン以下と大まかに定義され、空気中に浮遊する微小飛沫と、より迅速に落下して物体表面を汚染したり、目、口、鼻に付着したりして感染を引き起こす粒の大きな飛沫の影響についても、さまざまな状況が考慮されている。

微小飛沫が危険な理由

これらのシミュレーションのうち、ダイヤモンド・プリンセス号で実際に起こっていたことをある程度再現できたのは約130件。こうした最も「現実的」なシナリオを分析することで、研究チームはそれぞれの感染経路について最も可能性の高い影響度合いを数字としてはじき出した。

その結論は、微小飛沫が最大の感染経路となっており、新規感染のおよそ6割が微小飛沫によって引き起こされている、というものだった。これは、感染者から数メートル以内の近距離にいる場合と、それ以上離れている場合の両方に当てはまる。

アジミ氏は次のように話す。「空気感染が起こっていると、これまでにも多くの研究者が主張してきたが、具体的な数字は示されていなかった。微小飛沫の影響はどれくらいか。5%か、90%か。この論文で私たちは、少なくともダイヤモンド・プリンセス号の場合ではその影響度がどれくらいになるのか、数字として初めてリアルな推計値を示した」。

専門家によれば、「空気感染」が起こるロジックは単純明快だ。例えば、人は話しているときに無数の飛沫を放出しているが、その大半は極めて小さく、数分以上にわたって空気中に漂い続ける。こうした無数の飛沫は、放物線を描いて短時間で落下する大きな飛沫よりも粘膜に付着する可能性が高い。

微小飛沫はまた、呼吸器系の奥深くにまで吸い込まれ、肺に到達することが多い。肺は喉などの上方部位と違って、ごく少量のウイルスにさらされただけで感染してしまう。少なくともインフルエンザのようなほかのウイルス性呼吸器感染症では、このようなメカニズムで感染が起こっている。

(執筆:Benedict Carey記者、James Glanz記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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