「クルーズ船集団感染」研究で突き止めた真犯人 ダイヤモンド・プリンセスを襲った空気感染

拡大
縮小

WHOはそれまで咳などから出る大きな飛沫とウイルスに汚染された物体の表面を重視し、これらが主な感染経路になっているとの立場をとっていた。今でも多くの臨床医や疫学者が、感染拡大の中心経路は大きな飛沫や接触感染だと主張し続けている。

新しい論文はプレプリントサーバーに投稿され、科学雑誌に提出された。まだ査読は終わっていないが、ニューヨーク・タイムズの記者はこの論文をエアロゾルや感染症の専門家、約10人に見せた。新たな発見が認められれば、屋内空間をより安全なものとし、適切な個人防護具を選択するうえで重要な意味を持つことになるはずだ。

例えば、部屋や建物内の空気を可能な限り頻繁に「入れ換える」換気システム(外気を取り入れるものが理想だ)を使えば、屋内の感染リスクは低下させられる。しかし、しっかりと換気していたとしても、まだ十分とはいえない。

他人が食べたものの匂いがわかったら…

研究によると、ダイヤモンド・プリンセス号は十分な換気がなされており、空気も再循環させていなかった。つまり人々が距離を保ち、十分に換気されている空間であっても、高品質なマスク(一般的なサージカルマスクや複数層の布マスク)の着用は欠かせないとみていい。

ダイヤモンド・プリンセス号から13人の患者が搬送されてきたネブラスカ州の病院における最近の研究に加え、中国のレストランやワシントン州の合唱団で発生したクラスターなど、空気中に漂う微細な飛沫が多数の集団感染に関係していることを示す証拠が蓄積されているが、今回の研究はコンピューター・シミュレーションによって、それを別の角度から裏付けることになった。

この研究に関わっていないイギリス・レスター大学のジュリアン・タン名誉准教授(呼吸器科学)は、この論文を「私の知る限り、新型コロナ感染のさまざまな経路、とりわけ近距離エアロゾルと長距離エアロゾルをきちんと比較した初の試みだ」と評価する。

タン氏は感染に関わる距離や粒子の種類について、日常生活の簡単な例を用いながら、こう説明した。「私が昼食に食べたものの匂いをあなたが感じとったとしよう。この場合、あなたは私が吐いた息を吸っていることになり、ウイルスの粒子も吸い込んでいる可能性がある」。

パンデミックが発生した当初から科学者たちは、ウイルス拡散の仕組みを解明しようとしてきた。当初は、物体の表面を通じた接触感染が広く重視されていた。現在では、大きな飛沫が空中に投げた石のように放物線を描いて移動し、粘膜に直接付着して感染するという説を支持している研究者が多い。

次ページ新規感染の6割が微小飛沫で発生の可能性
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT