「政府は愚かだ」と批判する人が気づくべき真実 なぜ人々はコロナをさほど恐れなくなったか

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さて、仮説2を採るとすると、人々はなぜ4月はコロナウイルスを恐れ、7月はそれほど恐れなくなったのであろうか?

これに対する仮説Aは、4月に恐れすぎた理由としての仮説だが、初めてのことであり、かつ目に見えない恐怖、症状がない人からも感染する恐怖、というものによってパニック的に恐怖感が広がった、という説である。
これは、感染リスクを恐怖により過大評価しているわけだが、行動経済学では「プロスペクト理論」で典型的にモデル化されているように、微小確率の過大評価、という現象だと考えられる。

恐怖感が煽られ、コロナを過大評価した

しかし、微小確率を過大評価してしまう(宝くじで1等が当たる確率は隕石にぶつかって死ぬ確率よりも低いらしいが夢を買う人々が多くいる、いまや60歳前に死ぬ確率はかなり低いが、子供が生まれると多くの人が生命保険の死亡保障をつけるか、増やす。離婚して親権を失う確率の方が何十倍も高いのに)のは、学問の世界でもコンセンサスである。

だが、どのようなときに過大評価するかは、ほとんどわかっていない。つまり、あるときは過大評価するのに、別のときの微小確率は過大評価するどころか、過小評価、いやいやまったく無視してしまうことも多い、という現象があり、これをうまく説明できない。

今回のケースで言えば、初めてのこと、未知のこと、それもネガティブなことに対しては、恐怖感が煽られ、過大評価するというのが、多数派の解釈だろう。目に見えない、というのも恐怖を煽るには効果的で、放射能を極端に恐れるのも(ラジウム温泉にみんな行っていたのに)同様の理由だ。

これを利用したのかどうかわからないが、4月には「8割削減キャンペーン」が、「ニューヨークの次は東京だ」、というような有識者による脅しが功を奏して、成功した。しかし、今回は2度目であり「ぜんぜんニューヨークにならなかったじゃないか」、ということで、誰も恐怖感を抱かない。

一方、感染者を見たことも聞いたこともない、地方圏の人々は、恐怖を抱き「東京はすべてばい菌マン」という観念に支配されてしまう。これは、ウイルスを恐れているのか、コミュニティでの評判、圧力を恐れているのか、解釈は分かれるところかもしれない。

ただ、一方で「臭いものに蓋」「存在する確率を無視する」「リスクが存在しないことにする」、という現象も見られる。まさに「感染は若い人だけだ」「夜の店だけ」などと信じ込もうとしている(都知事がそうプレゼンしているように見えるからかもしれないが)現象がそうだし、弱毒化説もそうだ。

感染が拡大しているように見えても「いったん動き出した経済はとめられない」、とばかりに、政府も企業も「働き方を変える」ということは言わなくなったし(アリバイ作り的に控えめに言うようになったし)、夜の店も、休業要請でなく「適切な予防措置を施しステッカーを貼る」という方針に切り替えている。「それなら4月もそうすればよかったのに」、と思うが、もう経済を動かすのだから、それに都合の悪い現実には目をつぶる、ということだろう。

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