「政府は愚かだ」と批判する人が気づくべき真実 なぜ人々はコロナをさほど恐れなくなったか

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これは、行動経済学では古くから名前がつけられており、自分の都合のよいことだけ信じるのは、「確証バイアス」と呼ばれている。選挙で政治家が、事前調査で違う調査が出ると自分が優勢な調査だけ信じるとか、自分の買いたい株式について、良いニュースだけ信じるとか、さまざまな場面で観察される。

逆に、都合の悪いことに目をつぶるのは、「認知的不協和」と呼ばれ、無視する。ビジネス戦略を検討するときに、うまくいく可能性が80%を超えてくると、10数%のダウンサイドリスクは無視して、楽観してバンバン投資する(例えば日本航空との対比で、ここ数年のANAホールディングスはひとつの例かもしれない)ようなことがある。

ただ、ビジネスの投資の例で言うと、広告代理店や商社など、平成バブル期のイケイケのカルチャーが残っている業界と違って、例えば銀行業界など慎重な業界は「部長、リスクがあります、こういう事故が起きる可能性があります」、と言うと、投資はストップされる。「その事故の確率は1%以下なんじゃないの?」と聞くと部下は「確率はなんともいえませんし、たぶん大丈夫ですが、リスクがないとは言い切れません」、と言う。すると部長は「リスクがあるのか、じゃあ中止」、などとなってしまう。

「目立った軸」を中心に「選択肢」を評価

この差はどこから来るのか? 前述の例では、人間のタイプが違いすぎて適切な例ではないが、ハーバード大学のアンドレ・シュライファー教授らが提唱していた「Salience Theory」(Salienceは特徴、突出などの意)というものがあり、リスクや選択を迫られたときに、目立った軸を中心に選択肢を評価する、という理論がある。

これはコンセンサスが得られた理論ではないが、そういうこともあるかもしれない。ただ、この分野は発達途上で、行動経済学者に聞くよりも、人生経験豊富な人々に「脅しのテクニック」を学んだほうがいいかもしれない。いろんな勧誘商法は非常にこのような点を巧みに捉えており、消費者がどのような点に強く反応するか良くわかっているからだ。だが、もっとまともな話でも例は多数ある。

たとえば、今や若い世代は見たことがない人も出てきたかもしれないが、スマホ以前にはデジタルカメラ(デジカメ)というものがあり、ほぼ四半期ごとにモデルチェンジを繰り返した。しかも、ライバル製品に勝つためにひたすら、画素数を競っていた時代があった。1300万画素とか。日本のガラケーのディスプレイもカメラも、そういう競争をしていた時代があった。

しかし、実際には画素数は完全にオーバースペックで、1000万画素も誰も必要としないのである。では「メーカーは自己満足で競っていたか」、というとそうではない。消費者が、画素数の多いものにとにかく飛びつく、ということがあったから技術的には無駄な投資、マーケティング的には的確な投資をしていたのである。ただし、長い目で見れば、スマホにやられ、デジカメに投資していたこと自体が失敗だ、ということに現在から見ればなるだろうが。

結局、人間がどういうときに、微小確率を過大評価するのか、無視するのか、というのか、恐怖を煽ることをうまく使う、ということ以外はあまり経験則もなく、これから学問的にも発展途上である。またビジネス戦略としても常に儲かる探求分野である。

コロナ関連でも、政策担当者はマーケティングには優れているかもしれないが、私としては、普通にウイルスという感染症と淡々と静かに戦ってほしい(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースや競馬論を語るコーナーです。あらかじめご了承下さい)。

次ページここからは競馬コーナー。クイーンステークスの勝ち馬は?
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