中国で昨年末に出版された1冊の「奇書」が、最近になってネット上が騒然となる注目と批判を浴び、中国共産党の汚職取締機関が調査に乗り出す異例の事態に発展した。党中央規律検査委員会と国家監察委員会(訳注:中国共産党と中央政府の汚職取締機関)の合同ウェブサイトに7月29日に掲載された公示によれば、吉林省の関係部門が調査チームを組織し、問題の書籍『平安経』について取り調べることが決定された。
『平安経』とはどんな本なのか。その中身は「1歳平安、2歳平安……99歳平安」、「西安北駅平安、鄭州東駅平安……」という具合に、年齢や駅名などありふれた名詞の後ろに「平安」をつけてひたすら羅列する奇妙なものだ(訳注:中国語の平安には「平穏無事でありますように」との願いを込める意味がある)。著者の賀電氏は、吉林省公安庁党委員会副書記兼常務副庁長の肩書きを持つ公安部門の高級幹部である。
ネット上で拡散された『平安経』の著者紹介欄の写真などによれば、賀氏は博士号を2つ持つなど高い学術的素養を備えた人物であることがうかがえる。そのような立派な幹部のイメージと、『平安経』のような奇書との間には大きなギャップがある。
表紙に印刷された出版元が関与を否定
しかも困惑するのが、この本の出版のいきさつだ。同じくネット上で拡散された写真によれば、『平安経』は出版コードが割り振られた正規の出版物であり、定価は299元(約4485円)。それがネット書店などで販売されていた。ところが、表紙に社名が印刷された2つの出版元のうち1社が声明を出し、『平安経』の出版への関与を否定した。ならばどのようにして出版の手続きを踏み、発売することができたのか。このような高額な書籍をいったい誰が購入していたのか。
そして何より人々をあぜんとさせたのが、吉林省の多数のメディアが『平安経』を持ち上げる書評を掲載し、なかには朗読会を主催したメディアまであったことだ。また、吉林省のある官庁はSNS(社交サイト)の公式アカウントを通じて「一読の価値がある」と称賛し、「学者が読めば平安の哲理を悟り、企業家が読めば会社は安泰で憂いなく、民衆が読めば世の太平を享受する」などと歯の浮くような美辞麗句を捧げていた。
党中央規律検査委員会と国家監察委員会は『平安経』に関する異例の批評文をウェブサイトに発表し、次のように締めくくっている。
「野次馬の人々にとっては一笑に付せば済む話かもしれない。だが関係当局はこの問題に真摯に向き合い、調査結果を速やかに公表し、民衆の関心に応えるべきである。なぜなら、これは決して1人の幹部の問題ではなく、すべての党員幹部のイメージにかかわる案件だからだ」
(訳注:吉林省当局は7月31日付で賀電氏の免職を決定した)
(財新網編集部)
※原文の配信は7月29日
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