市民団体の「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)、現在の「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)の代表を長らく務めた国会議員・尹美香(ユンミヒャン)氏に対し、慰安婦の李容洙(イヨンス)さんが「当事者の声も聞かず、挺対協が日本との対話を拒否してきた」などと告発したことで問題となりました。
李さんは慰安婦の代表的存在であり、尹氏とも活動をともにしてきた人です。慰安婦の中には「性奴隷」という言葉に反感を抱く人もいます。また、日本からの補償金など「汚い金を受け取るな」と挺対協から脅された慰安婦もいます。挺対協の活動に不都合な証言は、無視されていたのです。慰安婦の中に「私たちは利用されている」という不満がマグマのようにたまっていたのも事実でした。
韓国人へのアピールが足りていない
──慰安婦たちの証言は、どの程度信用できるものでしょうか。
証言の信憑性は大きな問題で、実は慰安婦が戦時中どのような状況にあり、どう生活していたのかはほとんど知られていません。慰安婦の情報は韓国政府や挺対協のみが管理しており、日本側には公開されていないのです。慰安婦の実態がわからないまま日本政府は補償をしようとし、事実関係が曖昧にされていたということは、慰安婦問題が大きくねじれてしまった最大の要因だと思います。本書では信用に足る証言のみを中心に記述しています。
──日本は1995年に「アジア女性基金」(女性のためのアジア平和国民基金、2007年に解散)を創設し、寄付金と国庫から韓国をはじめアジアの慰安婦に対し補償金を支払ってきました。これには、日本首相のお詫びの手紙も同封されました。
2015年には日韓慰安婦合意で日本側が10億円を拠出して「和解・癒やし財団」が創設され、補償金が支払われています。
時系列をきちんとたどっていけば、日本は韓国に対し誠意を持って対応してきたといえます。ただ残念なのは、そんな活動を韓国国民に向けてもっとわかりやすく、かつ心に届くような形でアピールすることが足りなかったのではないでしょうか。
例えば、2016年に当時のオバマ米大統領が広島を訪れ、被爆者とともに「世界の非核化」を力強く訴えましたが、あのように韓国の人々の心に届くメッセージを発するべきだった。これまでの日本政府の対応を見ると、過去の過ちに対する事なかれ主義や、「金で済ませばいいだろう」といった安易な考えがどこかにあったのではないかと思います。
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