欧州サッカー「大物が動かぬ移籍市場」の裏事情 日本人CEOが明かすコロナ禍による環境激変

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そこで、より重要になるのが緻密な情報収集だ。STVVでは今季を迎えるに当たって、スカウティング体制を整備。選手が引き抜かれた瞬間に同等以上の人材を穴埋めできるような準備を整えておくことにしている。

「不透明な今季を戦い抜けるだけの陣容をそろえるために、専属1人・パートタイム2人のスカウト担当者を新たに置きました。1人は日本、2人はベルギーをベースにして、必要な試合やクラブに飛んで情報収集を行っています。

さらにイタリア2人、フランス1人、ベオグラード(セルビア)1人のスカウトとも提携。欧州全域での人材発掘に努めてもらっています。EU(欧州連合)内の選手であれば外国人枠に引っ掛からないことを考えると、やはりネットワークが勝負になります。コロナ禍ではその重要性がより高まると思います。

私はベルギーに赴く前、FC東京で強化部長やゼネラルマネージャーを務めていました。当時はスカウトが国内の大学・高校・ユース・J2などで視察・収集してきた情報のおかげで、迅速かつ柔軟にチーム編成に着手できました。その経験を踏まえると、やはりSTVVも同じような体制が不可欠。ようやくその一歩を踏み出したところです」(立石CEO)

とはいえ、絶対的主力をシーズンの真っ只中に何人も引き抜かれるのは、どんなチームにとっても痛い。かつてメルボルン・ビクトリーで本田圭佑(現・ボタフォゴ)らタレントを率いていたオーストラリア人指揮官、ケビン・マスカット監督も困難に直面するだろう。

仮に成績が振るわなかったとしても、契約期間中に解任すると違約金が発生するため、経営的に厳しい今季はシーズン中の監督交代には簡単には踏みきれない。その分、立石CEOの手腕にかかる部分は大きい。

欧州サッカーにおける日本人選手の現在地

「私もFC東京時代に長友(佑都=ガラタサライ)や武藤(嘉紀=ニューカッスル)、(中島)翔哉(ポルト)という日本代表レベルを取られて、穴埋めに苦労した経験があります。武藤のときは本当に大変だった(苦笑)。

本来なら選手を売らずに強化だけを考え、UCLやUELに参戦するような右肩上がりの軌跡を描ければいいですが、中小規模のSTVVはそういうクラブではない。レギュラークラスが5~6人出ていくことを考えておく必要があります。

その際、日本人選手ばかりを連れてきたら、地元では受け入れられない。冨安(健洋=ボローニャ)や遠藤(航)といった選手たちがステップアップしたことで、日本人選手への評価は高まりましたが、やはりシントトロイデンやリンブルフ州、ベルギー出身者がいないと、クラブ経営は立ち行かない。バランスを考えながら、補強を進めていくことが大事になります」(同)

このように欧州移籍市場のトレンド、コロナ禍の動きをつぶさに見て、的確な対処法を探している経験値は、日本サッカー界にも生かされるはず。今年3月にJリーグの非常勤理事に就任した立石CEOには、より大きな期待が寄せられるところだ。

次ページ本場で感じた日本人選手の"限界値"
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