農業よ農民よ!経営者たれ 直売所革命vs「6次産業」化--木内博一・農事組合法人和郷園代表理事/長谷川久夫・農業法人みずほ代表取締役社長
第2の挫折は政治だ。「農業、地域の問題を議会で訴えたい」。谷田部町(現つくば市)議会選挙に立候補した。初戦は苦杯をなめたが、議員3期目のときにボス議員から根回しがあった。「副議長にならないか」。
が、功績は議長に帰し、副議長は汚れ役、というのが暗黙の役割分担である。「だったら、議長になって全責任を取っても同じだっぺ」。共産党まで巻き込んで多数派を形成し、議長に当選した。時に、46歳。
議長就任の翌年、つくば市長が選挙違反で逮捕された。議長の長谷川は市長後継の第一候補だ。立候補したが、議長選のシコリがたたったか、首長のイスに後一歩及ばなかった。
「思いどおりに選挙をやって支持されなかった。不徳の致すところ」
吹っ切れた。いったい、自分は何がやりたかったのか。価格決定権を取り戻し、農業を変えることだ。この間、農水省にも訴えた。国の集約化政策は間違っているんじゃないか。返ってきたのは、「長谷川さん、後戻りの議論はできないんだ」。
「結局、政治や制度では変わらないんだよ。根っこは、個々の農家の意識だから。農家の意識を経営者に変えないと、変わらない」。造園業を辞め、政治から身を引いて原点に返ろう。90年に設立したみずほの村に専念する覚悟が定まった。
98年、“復帰”後の大仕事として、長谷川はみずほの村に二つの新ルールを導入した。一つ。出品する農家から30万円の販売権利金を徴収する。二つ。年間目標売り上げと、最低売り上げ(現在360万円)を設定する。目標額を上回った農家には報奨金を出し、最低売上額を下回る農家は退出してもらう--。
だが、販売権利金制度は総スカンだった。農家は、補助金はもらっても、カネを取られることに慣れていない。「出品してやっているのに、何の権利金だ」。誰一人権利金を払わない。「これでみずほの村もおしまいか」という声が聞こえてきた。
長谷川の狙いは、意識のレベルを引き上げること。「だって、30万円の権利金を払ってまで売るんだという意識と、漫然とできたモノを並べる意識とは、ものすごい違いだよ。30万円どころの違いじゃない」。長谷川は粘り強く説得した。「こうしないとあんたらを守れないんだ。意識を高め、質の高い競争を促すことが、あんたらを守ることになるんだ」。
そして、その結果。卵を出品するN農場は制度導入とともに、いったん退会した。3年後、再入会し、権利金制度の下でライバルと競争すると、年間330万円の売り上げが420万円に伸びた。ライバルも同時期、560万円を850万円に伸ばしている。あるいは、「レンコン名人」の名を恣(ほしいまま)にしたY農場。退会から7年後に再入会し、強力な新人と競い合うことで230万円の売り上げを590万円に拡大させた。
長谷川が言う。「人は責任を持って競争するとき、最も輝くんだよ」。
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