農業よ農民よ!経営者たれ 直売所革命vs「6次産業」化--木内博一・農事組合法人和郷園代表理事/長谷川久夫・農業法人みずほ代表取締役社長
初のジャスト・イン・タイム 保険業も海外生産も
木内も、挫折をバネにした。和郷園は日本で初めて、ジャスト・イン・タイムで「トレーサビリティ」(作物履歴の追跡調査)を可能にする仕組みを作り上げた。キッカケは、和郷園を襲った存亡の危機だった。
注文生産が軌道に乗り始めた頃、ある生協に和郷園が納入した商品から使用禁止農薬が検出されたのだ。木内たちは身に覚えがない。農薬は日進月歩だ。検査機関の装置が古く、使っていない農薬成分を誤って検知したのではないか。だが、証明するものが何もない。売り上げの6割を占めていたその生協から、1カ月間の取引停止を申し渡された。
まだトレーサビリティという言葉自体が一般化していなかった時期、木内は決意した。1時間以内で生産履歴を証明する仕組みを作ろう。カネはかけない。使うのは、携帯電話とパソコンのエクセル。農薬の使用基準を決め、圃場(ほじょう)台帳にコード番号を打つ。農家は農薬を散布しながらリアルタイムで本部に連絡し、パート職員がデータをインプットする。
災い転じて、とはこのことだ。トレーサビリティの実績に着目した大手保険代理店が4年前、ユニークな保険商品の開発を持ち込んできた。食品事故が起こったとき、回収費用や取引先の被害をすべて補償する日本初の保険である。「保険があるから、取引先は安心してお取引いただける。よそはマネできない」。
今、木内が考えているのは、この保険事業を「よそ」に拡大すること。トレーサビリティのノウハウを他の団体や食品会社に供与・指導し、和郷園の保険に加えることによってフィーをいただくビジネスである。
海外の道も開けた。国際産直でタイからバナナを輸入していた都内の生協。現地管理に手が回らず、木内に泣きついてきたのだ。和郷園はトレーサビリティの移植から始め、やがて生産・輸入業務も引き受けた。今はバナナとマンゴーが2本柱。バナナはタイ国内で多国籍企業ドールと肩を並べるまでになっている。
多角化の当然の帰結だろう。現在の和郷園は、農事組合法人・和郷園と株式会社・和郷の二重構造になっている。株式会社が作物の販売、多角化事業を一手に引き受け、農家(農事組合法人)は生産に専念する。株式会社の社長はもちろん木内。が、木内以外、農家の株主はいない。
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