ポンペオ演説ににじむ「対中政策」後悔の端緒 6年前に現れていた"中国台頭"の懸念と予兆

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この安全性について、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が共同で組織し、食品の国際規格を設定するコーデックス委員会は2012年7月5日に、動物組織に使用する場合の最大残留基準値を設定している。つまり、豚肉や牛肉における安全とされる残留基準値だ。

だが、この基準値はアメリカの提案による参加国の票決によって決まったもので、しかもその内訳が賛成69票、反対67票という僅差によるものだった。これに猛反発しているのがEU(欧州連合)だった。

決定の翌日、EUはさっそく声明を発表し、「データが十分でなく、ヒトへの健康影響が除外できない」として、使用肉の輸入すら断固拒否した。これとまったく同じ立場をとったのがロシアと中国だった。

もともと中国では、豚肉の脂身を減らし赤身肉を増やす「痩肉精」と呼ばれる添加物が使われていた。ところが、中国各地でこの肉を食べたことによる中毒事件が発生したため、全土での使用が禁止された。

そんな過去のトラウマから、中国には肉赤身化剤を一掃したい事情があった。少しでも認めようものなら、国内でまた模造品が出回って、とんでもないことになるからだ。

だが、アメリカはそうは受け取らない。

「動物防疫上の理由から貿易を阻害している国」

彼らは中国をそう表現していた。

しかも、「中国はEUのやり方をまねている」という意見がパネラーから飛び出すほど、アメリカにとってみればEUと中国が歩調をそろえたように映った。いや、その時点でEUを超える存在に見えた。

だから、アメリカの食肉業界を代表する彼らは、こう言っていた。

「これからは、中国が食の安全のルールを決めていく」

中国の“毒食”を指摘してきた日本からすれば、とても信じがたいことかもしれない。しかし、世界的に見れば、中国は食の安全に厳格さを求めるようになって、食料貿易にも大きな影響を与える国として台頭していた。

中国の過度な台頭を許した原因

今年6月に中国は、アメリカ、カナダ、ブラジルから輸入される大豆に、新型コロナウイルスに汚染されていないとする安全証明書を求めている。今では日本国内でも、中国の“毒食”を指摘する声も聞こえてこない。

今回のポンペオ国務長官の演説の裏にあるのは、そのころから叫ばれていた中国の台頭がここまでになるとは予測していなかったことだ。むしろ、気づくのが遅すぎたほどだ。

その見通しの過ちは、前政権の局長次官補が言ったように、中国のWTO加盟によって「中国は既存の世界の貿易ルールに従う国だ」と錯覚したことにある。これからは自由主義経済に従う、共産主義も変わっていく。それこそが「関与政策」の成功の第1歩とすら思っていた。だからこそ、ここへ来てポンペオ国務長官が「失敗」と表明したはずだ。

中国が世界の食の安全を牛耳る。厳格化させる。そうなると、日本が中国に食料を依存するようになって以来、ずっと“毒食”問題を叫んできたことが、中国を教育して、改めさせた国として誇らしいが、今ではその中国の言いなりにさせられるところにまで、世界情勢は来ている。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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