ポンペオ演説ににじむ「対中政策」後悔の端緒 6年前に現れていた"中国台頭"の懸念と予兆

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世界中に支部を持つこの団体の主な任務は、ひと言で言えば、アメリカ産の牛・豚肉輸出のインテリジェンスだ。日本にも東京・虎ノ門にオフィスを構える。

アメリカ国内の個人の食肉生産者、飼料穀物生産者から、「カーギル(Cargill)」などの穀物メジャー、加工業者、流通業者、それに農業団体など、あらゆる立場の関係者からの出資と、政府の資金が供出された半官半民の組織として、1976年に設立された。アメリカの食肉戦略の要だ。

USMEFの総会では、その1年間の活動が報告される。世界のどの地域のどこの国で輸出が伸びなかった、その理由はどこにあるのか、どうすればよいのか――。牛肉、豚肉の分科会で大学の研究者らが報告を行い、翌年の活動方針を立てる。

私が訪れた当時は、オバマ政権の末期で、今では信じられないかもしれないが、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の合意が遅れているのは日本のせいだ、と批判する意見まで飛んでいた。

「世界の秩序が崩壊しつつある」

3日間の予定で開催された総会の最終日。全体のビジネスセッションが行われた。壇上にはパネラーとして、在ワシントン・アイルランド大使、アメリカ農務省海外農務局局長次官補、それに大手海外コンサルティング会社社長が並んでいた。

その冒頭、司会進行役からのこんな発言から始まった。

「今、世界の秩序が崩壊しつつあります」

そこから、当時は世界の脅威ともなっていたイスラム過激派組織ISIS(イスラミックステイト)や、ロシアがクリミア半島を併合したウクライナ情勢を例に、その深刻さを強調したところで、こう続けた。

「そこへ来て問題なのは中国です。新しい世界状況にどう対応していくのか、そこがはっきりしない……」

中国では、ちょうど習近平政権が「一帯一路」政策を打ち出し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を立ち上げた時期と重なっていた。そこへ、パネラーの農務省局長次官補がこう評価を加えた。

「中国はこれまで世界の標準をつくる国ではなかった。開放政策をとっていく中で、世界に顔を出す国ではなかった。WTO(世界貿易機関)への加盟でも、先に決まったことを中国が受け入れる形で行われてきた。ところが、金融危機以降の中国は、国際舞台に顔を出すようになってきた。軍事的にも強大で、政治的影響力を持つようになり、世界のルールを変える、あるいは策定する力を持つようになってきた」

そこから、食の安全のグローバル化、標準化にも中国が影響してきている例として「ラクトパミン」が挙げられた。

ラクトパミン(塩酸ラクトパミン)とは、興奮剤・成長促進剤としての作用がある化学物質。主に赤身肉を多くさせる目的で、アメリカでは豚の肥育最終段階(出荷前45〜90日)で使用される。

日本人の多くは知らないかもしれないが、アメリカやカナダから輸入される豚肉には、この薬剤が使用されている。一方で、日本国内で生産される豚肉には使用が認められていない。

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