机を蹴飛ばされても前に進む「異色の官僚」

経産省 製造産業局 生物化学産業課長 江崎禎英(上)

「私の会社をベンチャーと呼ばないで」

三宅:通産省や経産省では具体的に何をされたのですか?

江崎:ひとつは1995年に産業資金課で取り組んだ店頭市場改革です。この結果、創業間もないベンチャー企業でも株式公開ができるようになり、第3次ベンチャーブームを支える原動力になりました。

当時、日本では新興企業が資金調達する方法は限られていました。銀行に代表される間接金融が中心で、家や土地を担保におカネを借りる。事業に失敗したら何もかも失ってしまう。したがって起業するにはたいへん大きなリスクを伴っていました。この頃すでにバブル崩壊の兆しも出始めていて、資金調達は厳しくなりつつありました。

しかし、本来、世の中には株式市場など直接金融を通じた、もうひとつの調達方法があります。米国ではこうした市場を使ってベンチャー企業が大きく伸びていることはよく知られていました。他方、日本の株式市場ではベンチャー企業などまったく相手にされない。それは変だということで、この制度を見直そうというのが議論の始まりでした。

三宅:江崎さんが入省5年目くらいで、大蔵省証券局(現在では金融庁)に出向して帰ってきた頃ですね。

江崎:そうです。出向した頃、大蔵省では金融制度改革の真っ最中で、銀行と証券の垣根問題が重要テーマでした。証券取引法の改正に携わっていましたので、資本市場が一部の人のものであることは知っていました。

私は通産省に戻って最初の3カ月間はほとんど席にいなくて、何をすべきか考えるために、とにかく新進気鋭の経営者の方々にお会いして、お話を伺っていました。当時はまだ「ベンチャー」という言葉自体がそれほど普及しておらず、一発屋的なイメージもあったのか、多くの経営者の方から「私の会社をベンチャーと呼ばないで」と言われました(笑)。

若き孫さんとの出会い

三宅:どんな人に会ったのですか?

江崎:多くの方にお会いしましたが、特に印象的だったのは、「私は、ボール(ピンポン球?)にコンピュータ、テレビ、机といった文字を書き、それを20個ぐらい袋に入れて、かき回して3つ取り出すんです。その3つのボールに書かれた文字をヒントに新しいビジネスを考える。5分考えて出てこなければ、また袋に戻して同じことをする。これを1日中やっているんですよ」と話してくださった方がいました。そのときはベンチャーの経営者には不思議な人がいるものだなと思っていましたが、それが、後のソフトバンクの孫正義社長です。

三宅:それはすごい! そういう人たちにたくさん話を聞いて、やるべきことが見えてきたのですか?

江崎:確かに問題点は見えてきました。最初は皆さん「金融制度の問題だから」「法律がそうなっているから」とおっしゃっていましたが、調べていくうちに、問題はルールそれ自体ではなく、ルールの運用にあることがわかってきたのです。実際のところ、日本の証券取引法はアメリカの法律の翻訳ですから、条文の内容はほぼ同じ。ところがアメリカではベンチャー企業が資金調達できるのに、日本ではできない。それはなぜなのか?

さらに勉強を進めていくと、日本の資本市場には、明文化されていない実質基準というものがあることがわかりました。企業実績や売上高など実質的に大企業でなければクリアできないような暗黙のルールがあり、創業間もないベンチャーなど、証券会社がまったく相手にしない理由が見えてきました。

三宅:ルールどおりの数字をクリアしていても、相手にされないわけですね。

江崎:面白いことに、証券会社に聞くと実質基準はあると言う。でも大蔵省は実質基準などないと言う。何度尋ねても「日本では明文化されたルールだけしか存在しない。アメリカと何ら変わらない」との回答でした。「でも日本ではベンチャー企業が株式公開した例がひとつもないでしょ」と言っても、「それは投資家保護の観点から審査した結果、たまたまそうなっただけ」と、突っぱねられる。一向に議論が進みません。そこで、ベンチャー企業のための新しい株式市場である「第2店頭市場」を作ることを視野に、通産省で審議会を立ち上げました。

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