東京女子医大病院「年中無休プラン」への大疑問 医療事故でスケープゴートにされた医師が証言

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「当時、研修医の2年間は月給4万5000円でした。毎日、当直してやっと手取り12万円。研修医が無給だった時代もあったそうですが、女子医大の給料はほかの大学よりも特別安かった。

勤務は48時間制です。40時間寝ないで働いて、8時間フリーの時間に、食事や睡眠を取るというスタイル。こういう状態ですから、女子医大出身の女性医師がメジャーな外科の教授になるケースはほとんどありませんでした」

東京女子医大に所属していた、心臓外科医の佐藤一樹氏(筆者撮影)

2001年、当時12歳の子供が心臓手術後に死亡する事故が発生。助手として手術に関わっていた佐藤医師は、業務上過失致死容疑で逮捕された(後に無罪確定)。

女子医大の調査報告書が、佐藤医師による人工心肺装置の操作ミスが死因と決めつけたことが、逮捕に大きく影響していた。

「調査報告書を書いたのは、泌尿器科の教授でした。心臓外科の専門家は調査委員の中に1人もいなくて、結果として私がスケープゴートにされたのです。女子医大は、全国各地の医者が集まっているので、横のつながりがまったくありませんでした。他の病院が、同じ大学の敷地内にあるという感覚です」(佐藤一樹医師)

助手だった佐藤医師だけに、すべての責任を押し付けようとした、当時の女子医大。後に対応の誤りを認めて佐藤氏に謝罪し、損害賠償を支払った。執刀医の講師は、記録を改竄(かいざん)した証拠隠滅の疑いで、有罪判決を受けている。

厚労省からは特定機能病院の承認を取り消され、患者数が激減。女子医大の経営は、大きく悪化した。

医療しか知らない医者の集団が招く非常識

全国から集まった優秀な医師によって高い評価を受けながら、肝心の「人」を大事にしてこなかったことで、医療機関としての信頼を失ってしまったのではないか。今後、女子医大が変わるためには何が必要か、佐藤氏に尋ねた。

「医者の大半は、社会の構成員としての自覚が足りない。だから、医療しか知らない医者の集団では、非常識なことがまかり通ってしまうのでしょう。女子医大の経営には、経済界などから第三者が入るべきだと思います」

現在、佐藤医師は東京・葛飾区で「いつき会ハートクリニック」の院長を務める。今夏のボーナスは、スタッフに感謝の気持ちを込めて、例年よりも上乗せしたという。

現在の女子医大に変化は起きているのか、現役医師に聞いてみた。

「働いている人たちは、普段通りです。ボーナスの件で報道が過熱して、女子医大の悪いイメージが定着してしまうほうが心配になってきました。

看護師や研修医が、来年度枠の募集にエントリーしてくれないのではないか、と心配しています」

懸念はもっともだ。それでも、今は女子医大の膿をしっかり出さなければならないのではないか。そうしなければ、問題の本質は何も変わらない。
今月29日に予定されている女子医大の理事会で承認されると、ボーナスではなく、「手当」が支給される予定だ。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。近著に『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。

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