無印まで参入、知られざる「コオロギ食」の裏側 欧米で過熱しているが、商品開発には苦労も

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バグモでは創業以降、えさの配合などを変えながら、食用コオロギ自体の味の改良を追求してきた。その成果に手応えを感じたこともあり、同社はコオロギの味を前面に打ち出した商品に切り替えることを決断。発売を予定している出汁パックは、コオロギパウダーや野菜パウダーを調合して味を整え、バグモが拠点を置く京都の料亭との協業で開発したシリーズも予定している。コオロギの上品なうまみと甘さが特徴という。

日本は「味」での勝負が必須?

日本国内では、環境問題に対する意識が一般消費者の購買行動に与える影響はヨーロッパほど強くないとされ、複数の小売業界関係者は「日本では社会的意義などを掲げて商品を訴求して売り上げを取ることは難しい」と吐露する。無印のコオロギせんべいのヒットは、商品の意外性や、無印のブランドイメージと発信手法との連動がうまく当たった「例外」とも言える。

バグモの松居CEOも「日本は環境への観点から訴求して顧客を開拓するのはハードルが高いだろうと思っていたが、想像以上に高かった。『いいことだね』とは言われても、それが購買にはなかなか結びつかない」と話す。だからこそ、日本で昆虫食を広めるうえでは他の食材のように味やうまみでの訴求が欠かせないと考えた。

バグモは現在ベトナムの農家でコオロギを養殖しているが、2021年には国内のコオロギ養殖のためのパイロットファームで実証実験を行い、より低コストで安定した品質の食用コオロギの生産を目指す方針だ。将来的には、コオロギの自動養殖システムを各地域の農家に提供し、コオロギを原材料に使いたいメーカーとの橋渡しをする事業の展開を構想している。

まだ国内では「風変わりなもの」「キワモノ」などとして受け入れられがちな食用コオロギ。ベンチャーに留まらず、無印のような小売り企業や食品メーカーの参入も活発になれば、遠くないうちに“おいしい食材の一つ”として家庭や飲食店で使われる日が来るかもしれない。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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