巨大企業に富が集まる繁栄が健全と言えない訳 現代社会は縮退を止めない方向へ向かっている

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縮小

しかしこれと同じことを現代社会に適用しようとしても、それは回復の手段としては恐らくもはや有効ではない。故意にそんな乱暴な方法をとるのが道義的に問題なのは無論だが、むしろそれが有効でない理由は、現実に起こりうる程度の小破局では、現代社会の縮退を根本からリセットするには恐らく力不足で、中途半端な結末に終わってしまうと予想されるからである。例えば2008年のリーマンショックも、資本主義を根本的にリセットする力はなかった。

そうした理由で、現代の人間社会は当面そうした破局的なリセットを止めることのほうに全力を注いでおり、そのこと自体は間違っていない。しかし結果として社会は、縮退のためのブレーキを利かないようにしたうえで、一方通行的にそれを拡大させる方向に向かってしまっている。

故意には行えず、放置していても回復しない

こういう場合、思い切って山火事のような大破局で荒療治を行えれば、その後は意外に健康体に戻れるものだが、現実には故意にそれを行うことなどできるはずもなく、かといって放置しておいても回復することはない。そしてそれがあまりに長い間続いてしまうと、そこから回復するための力そのものを永久に失ってしまうことさえ、覚悟せねばならないかもしれないのである。

(出所)『現代経済学の直観的方法』(講談社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

このためわれわれはかえって深刻な問題に直面するようになった。つまり末期医療の「死ぬに死ねない」スパゲッティ症候群の悲惨と同様に、むしろそれが中途半端な状態に陥ったまま、どちらへ行くこともできずその状態が恒久化してしまい、そのうちにそこから抜け出す力そのものを永久に失ってしまうことのほうが、遥かに恐ろしいのではあるまいかということである。

そこで、そのように短期的願望などが極大化した状態で、進むことも退くこともできなくなり、回復手段を失ったまま半永久的にそれが続くようになってしまっている状態を「コラプサー」と呼ぶことにしよう(実は「縮退」も「コラプサー」も元はブラックホールなどに関連した言葉だ)。

つまりこれからわれわれは、そうした「縮退によるコラプサー化」を意識的に人の力で防ぐことを考えねばならず、それを実現するための何らかの社会的な技術を見出さねばならない状況にあるように思われるのである。

長沼 伸一郎 物理学者

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ながぬま しんいちろう / Shinichiro Naganuma

1961年東京生まれ。1985年早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業。1985年同大学院中退。1987年『物理数学の直観的方法』の出版で理系世界に一大センセーションを巻き起こす。「パスファインダー物理学チーム」(http://pathfind.motion.ne.jp/)代表。著書に『物理数学の直観的方法 普及版』『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(以上、講談社ブルーバックス)、『一般相対性理論の直観的方法』『無形化世界の力学と戦略』『ステルス・デザインの方法』(以上、通商産業研究社)など。   

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