巨大企業に富が集まる繁栄が健全と言えない訳 現代社会は縮退を止めない方向へ向かっている

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そしてここで現実の社会を眺めると1つ注目すべきことがある。それは縮退が進行して希少性の低い状態に移行する過程で、しばしば金銭的な富が引き出されているということである。

現在の巨大企業が、中小企業を絶滅させてその縄張りを吸収することで、巨額の富を得ていることは誰の目にも明らかだろう。それは言葉を換えれば、経済社会を縮退させる過程でその富が生まれていることになる。

そしてその極端の例が、金融部門の異常な発達であろう。

つまり世界のマネーが金融という狭い領域に集中してきて、その中だけを回るようになっているわけである。これは図で描けば先ほどと全く同じパターンになり、この現象が世界全体のマネーの流れの縮退そのものであることは、あらためて指摘するまでもないだろう。

(出所)『現代経済学の直観的方法』(講談社)

具体的にはこの図の場合、金融市場の外側を回る矢印が、一般の社会生活に根ざした実体経済の中を回るマネーで、本来ならば世界のマネーはその外側の領域全体をくまなく隅々まで広く回るべきものである。しかし現在の世界経済ではその流れ全体がどんどん縮退し、狭い金融市場の内側だけで投機のために回るようになっている。

それが一方通行的に進行するため、金融市場に溜まるマネーの量がどんどん巨大化してしまうのだが、問題なのはその規模で、いまやそれは想像を絶する代物になっているのである。

投機のために動くお金は実体経済よりも莫大

例えば1990年代の経済は、現在から見ればまだしも「健全」に見えていたが、実際にはその時代にすでに1日当たりに投機のために動く資金の量は1兆ドルのレベルに達していた。ところがこれは当時の他の経済指標と比べると実にとんでもない代物であったことがわかる。

比較のため他の数字を記すと、例えば同時期のアメリカの国内総生産は7兆ドル強であり、日本の1年間の輸出額が約4000億ドルである。そして世界全体の年間貿易額が5兆ドル弱(1日当たりでは130億ドル強)にすぎなかったのであり、それは次のことを意味する。

つまり1日に投機のために動く資金が1兆ドルなのに対し、古典的な「貿易」、すなわち製品やサービスの国際間取り引きのために動く資金は、1日で130億ドルにすぎないというのである。

(ちなみに2018年には1日あたり金融市場で動く資金量は6兆ドル、貿易額は1日あたり500億強となった)

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