日本の最低賃金「メキシコ並み」OECD25位の衝撃 給料安すぎ問題の根因「最低賃金」を上げよ

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連邦政府が定める最低賃金は2009年7月24日以降、7.25ドルで変わっていませんが、2020年1月時点では、29の州とワシントンD.C.の最低賃金が、連邦政府のそれを上回っています。

その結果、最低賃金で働いているアメリカの労働者の約90%は、連邦政府が定める最低賃金より高い賃金で働いています。逆にいうと、連邦政府の定める最低賃金で働いている労働者は、最低賃金で働いている人全体の約10%しかいません。つまり、先ほどの0.33という数値で他の国と比べるのは適切な比較ではないのです。

また、アメリカでは、2020年1月に20の州が最低賃金を引き上げました。ワシントンD.C.やニューヨーク市は15ドル、ワシントン州は13.5ドル、カリフォルニア州は13ドルなど、連邦政府の決めた水準を大幅に上回っています。

2019年5月現在のアメリカ全体の最低賃金は、加重平均で11.80ドル。連邦政府が定める最低賃金の1.6倍にもなっています(出所:The Real Minimum Wage, Vanek-Smith, Stacey; Garcia, Cardiff, May 16, 2019)。

「アメリカの最低賃金はきわめて低い」というのも、実態を見るとやはり誤解であることがわかります。

日本において「最低賃金引き上げ」は急務だ

このように考えていくと、「日本の最低賃金は低すぎる」「日本では最低賃金の引き上げが急務だ」という結論に至ります。だから私はずっと、そのように主張してきました。

GDPは「消費+投資+政府支出+輸出-輸入」と計算されます。このうち最大の項目である消費は、究極的には人間の数と給料の掛け算です。これから人間の数が減るので、消費を守るには、給料を引き上げることが急務です。議論の余地はありません。

「最低賃金が低いことで、日本は高い国際競争力を維持できている。だから最低賃金を上げる必要はない」と言われることがあります。しかし、これは間違っています。日本はGDPに対する輸出の比率が非常に低いだけではなく、そもそも最低賃金で働いている労働者の多くは、飲食・宿泊など、輸出と関係がない内需の業種で働いているからです。

最低賃金を引き上げると、企業の経営者は労働生産性を向上させないといけなくなります。実際、海外では、最低賃金を引き上げると国全体の労働生産性が上がることが確認されています。逆に言うと、経営者が最低賃金の引き上げにこんなに反対するのは、労働生産性を引き上げるという苦労を背負いたくないからでしょう。

この結論には、2つの典型的な反論があります。

1つは「最低賃金を引き上げると倒産が増え、失業者も増えるぞ」というものです。しかし実際には、徹底的な分析とエビデンスをもとに、毎年適切に最低賃金を引き上げると、失業者が増えるどころか、モノプソニーの原理によって失業者は減ることが確認されています(参考:日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける)。「失業者が増えるぞ」という脅しは、モノプソニーによる労働者搾取、平たく言うとボッタクリができなくなることに対する単なる反発にすぎません。

2つめの反論は「お隣の韓国では、最低賃金を上げすぎた結果、倒産が増えて失業率が高まり、大混乱が起きた」というものです。しかしこの反論も、実は最低賃金を引き上げた直後の状況しか見ていない、近視眼的な誤解なのです。

次回以降、この2つの反論のどこが間違っているか、詳しく解説していきます。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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