遠出しなくても「休み楽しむ」ギリシャ人の知恵 コロナで「どこにも行けない」と嘆くあなたへ

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父にとっては、料理をしているときも、チェスをしているときも、遊園地のアトラクションを楽しんでいるような感覚なのだと思います。どちらも、定年するまではあまりやった経験がなく、初心者のレベルでしたが、だんだんと自分が上達していく過程を楽しんでいるのではないかと思います。

そして夏の過ごし方の3つ目は、父を始め多くのギリシャ人が大切にしている、ぼーっとすることです。何を考えるわけでもなく、海辺やベランダ、近所のカフェなどでぼーっとする。これにより、活力を得ることができます。

日本のテレビで、「ギリシャ人は昼寝をしているからあまり働いていない」という報道がされていると聞いたことがありますが、実際はちょっと違います。有給休暇はギリシャの方が取りやすいと思いますが、日本に比べると祝日はギリシャの方が少ないですし、勤務時間も特に短いということはありません。

公務員だった父の業務は7時半から始まり、昼食休憩なしで15時半までの勤務でした。特にポジションの上がった40代後半からは、ほぼ毎日家に仕事を持って帰ってきていましたので、とても忙しい日々を送っていました。

時間的な余裕があるからこそ生まれること

職場でも家でも仕事をして忙しかった父ですが、週末には海へ出かけ、空を見上げながらプカプカと海に浮いていました。忙しい日常から離れ、何も考えずに、ゆっくりと時間が流れていくことを感じて、自然から力を得ようとしていたのだと思います。

古代ギリシャの偉人もそうだったのではないかと思います。今では学校という意味で使われているschoolの語源はギリシャ語のσχόλη(スホリ)で、これは「自由な時間」という意味でした。ゆっくりとした静かな自由な時間の中で、議論をしてお互いに知識を高め合い、新しい発想が生まれていました。そして、後にこのような場所のことをσχόληと呼ぶようになったのです。

時間的な余裕が精神的な余裕を生み、優れた発想をもたらしてきたことをギリシャ人は歴史を通して知っています。だからこそ、忙しい中でもぼーっとする時間を作っているのだと思います。これが人生の質を向上するのです。

新型コロナの影響で、移動に制限があったり、大勢で集まったりするのは難しいと思いますが、ぜひ何か熱中できることを見つけて、楽しい時間を過ごしてもらえればと思います。自分の遊園地を作りましょう!

アナスタシア・新井・カチャントニ 通訳、翻訳家、ライター

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アナスタシア・アライ・カチャントニ / Anastasia Arai Katsantoni

ギリシャ生まれ。ギリシャの大学の専攻は物理だったが日本に興味を持ち、現在は通訳、翻訳家、コーディネーター、ライターとして活動。日本のポップカルチャーから伝統文化、料理まで、幅広い分野を研究。また、ギリシャで剣道を教える日本人の夫を手伝う傍ら、自らもギリシャ人に日本語を教え、日本の文化を伝えるべく奮闘中。現在はアテネ近郊に在住。ブログはこちら

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