MMTでは解決しない「日本人の給料安すぎ問題」 労働生産性向上のため「産業構造」を転換せよ
しかし近年、「MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)」という理論が注目を集めるようになりました。MMTとは「インフレにならないかぎりにおいて、政府はいくらでも支出を増やすことができる」という主張です。従来のように、GDPに対する国の借金比率を気にする必要はないと論じられています。
この主張が正しいとすれば、日本政府は支出を大きく増やすことで、GDPを高めることができます。「生産性=GDP÷人口」ですから、生産性も上がります。
政府支出を増やして経済を成長させることは、1929年に始まった世界恐慌への対策としてできたケインズ経済学の基本中の基本です。ケインズ経済学に従って景気対策を講じる場合、総需要が不足している分を、国が借金をしたうえで支出を増やすことで補うと考えます。
さらに、一般的に、不景気のときは失業率が上がって、失業者がますます職を得にくくなります。そこで国がお金を出すことで、需要を呼び戻す。すると企業は失業者を雇用しはじめ、雇用される側も消費を増やすので、経済の循環がよくなるというシナリオです。
どのMMTの教科書でも、ケインズ経済学の教科書でも、財政支出を増やす基本的な目的はfull employment(完全雇用)を実現することであるとされています。
政府支出は「雇用を増やす」効果が大きい
さて、仮に「インフレにならないかぎりにおいて、政府はいくらでも支出を増やすことができる」というMMTの主張が正しいとしましょう。このとき、政府が支出を増大させることで、日本の生産性は上がり、日本人の「給料安すぎ問題」は解決するのでしょうか。
実はそうならないのです。それを検証するために、改めてGDPと生産性の関係を見てみましょう。
冒頭に引用した意見にもあったとおり、「生産性=GDP÷人口」です。この式は「生産性=労働生産性×労働参加率」と展開することができます。
生産性
=GDP÷人口
=GDP×(1/人口)
=(GDP/就業者数)×(就業者数/人口)
=労働生産性×労働参加率
実際に仕事をしている就業者の労働生産性が1000万円の場合、国民の中で就業者が占める比率、すなわち労働参加率が50%であれば、国全体の生産性は500万円となります(1000万円×50%=500万円)。
このときの失業率が10%だとしましょう。国がお金を出して需要を増やし、企業が労働者を雇って失業率がゼロになれば、労働参加率は60%になります。労働生産性が変わらなくても、生産性は600万円まで高まります(1000万円×60%=600万円)。
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