トヨタが「電気自動車」に消極的にみえるワケ EV普及率を2050年で1割と低く見積もる理由

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具体的に言えば、ディーラー側から「ぜひ、売りたい」という声が出てくるタイミングである。つまり、現時点で日本のトヨタディーラーから「EVを売りたい」という積極的な声が上がってきていないのだ。

また、政治に絡む事案における、経営判断を行う「時」もある。代表的なのは、国や地域におけるCO2削減や燃費改善に対する法案への対応だ。

具体的には、アメリカ・カリフォルニア州が主導し、他の一部の州でも採用するゼロエミッションヴィークル(ZEV)規制や、企業間平均燃費のCAFE。同様に、中国でのNEV(新エネルギー)対応や中国CAFE。さらに、足元での規制値としては世界で最も厳しい欧州CO2規制がある。

こうした規制対応について、さまざまな機会でトヨタ経営幹部や技術系幹部に話を聞くと、「基本計画のうえで、状況に応じて考える」と言う。さらに踏み込んで聞くと「法規制で必要な分(規制台数やクレジット)だけこなす」とも表現する。

中国で発売する「C-HR EV」(写真:トヨタ自動車)

中国でいえば、「UX300e」と、その原型であるトヨタ「C-HR EV」の量産車投入。加えて、EVでは地場中堅のBYDと、燃料電池車では第一汽車や広州汽車などの大手と連携することで、トヨタから中国側への「Give(ギブ)」を行う。一方で、トヨタが得意とするハイブリッド車に対する税制優遇などを中国政府と定常的に交渉するなどの“民間外交”を通じて「Take(テイク)」を探る。

アメリカでは、トランプ政権になり旧オバマ政権でのCAFE大幅見直しや、事実上のZEV撤廃でのアメリカ環境局(EPA)による全米統一規制への動きがある。だが、新型コロナウイルス感染の第二波到来の危険性が高まりながら、11月の大統領選挙を迎えることになりそうな情勢であり、トヨタはアメリカでのEVなど環境車導入に対して「Wait & See」しているように見える。

我慢の「Wait & See」もあったテスラとのあのとき

一方で、過去には社会情勢を見て、トヨタがEV関連事案を経営判断で一気に動かした事例もある。

2010年5月、テスラに対してトヨタとGMが合弁事業として立ち上げたカリフォルニア州内のNUMMI(通称ヌーミー)売却を電撃的に発表した。同時に、テスラへの5000万ドル(現在の約53億8,000万円)の投資と、テスラ株3.15%の所有(2016年に売却)を発表している。

2011年米ロサンゼルスモーターショー。トヨタと技術提携し「RAV4 EV」をお披露目するテスラのイーロン・マスクCEOとトヨタ関係者ら(筆者撮影)

当時、オバマ政権によるグリーンニューディール政策で、アメリカエネルギー省の長期低利子融資枠を確保したテスラは、工場予定地が二転三転していた。そうした中、アーノルド・シュワルツェネッガー州知事(当時)がトヨタとテスラの仲を取り持つという、政治的な演出が話題となった。

その後、トヨタはZEV法対応で「RAV4 EV」の共同開発を行う際、テスラの“EV技術の実態”を目の当たりにするのだが、そこはじっと我慢の「Wait & See」だった。

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