コシヒカリ暴落が農家を直撃 「安い新潟米」投入で消耗戦へ

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コシヒカリ暴落が農家を直撃 「安い新潟米」投入で消耗戦へ

新潟産コシヒカリが大量に売れ残っている。挽回策として低価格米を投入するが…。
(週刊東洋経済2月23日号より)

 日本有数のコメ王国が、かつてない苦境に立たされている。

 「昔なら、百姓一揆だよ。14年前はコシヒカリが1俵(60キログラム)2万4000円だったのに、2007年は1万2300円。おまけに長岡の田んぼの3割以上が減反の対象になっている」

 長岡市の小野喜範さんは憤る。07年産コシヒカリの農協買い取り価格は、前年から2700円安い1万2300円に引き下げられた。1俵当たりの生産費は「最低でも1万3000円以上」(小野さん)。

 多くの農家が採算割れに悲鳴を上げ、農協(JA)や地元金融機関は緊急融資を準備した。「地代が払えなくなった農業法人の借り入れが集中した」(長岡市役所)。

 最高級米の産地である、魚沼にも異変が起きていた。米価下落は魚沼地区も例外でなく、07年産の農協買い取り価格は、前年比4400円安い1俵2万0300円。十日町市で220ヘクタールの畑を受託する株式会社千手の柄沢和久社長は「5年前なら、魚沼産コシヒカリの農協買い取り価格は2万8000円だった。地元の農家は、今でもコメに代わるものはないと信じている」と語る。しかし、風向きは変わり始め「07年産の魚沼産コシヒカリは売れ行きがよくない」(JA全農米穀部)。

 こうした情況は、今年に始まったことではない。05年以降、新潟米は苦戦を強いられている。不作だった03年、04年で販売シェアを落とし、挽回を期した05年に直面したのは大量売れ残りという現実だった。気がつけば、直近3年間で政府が買い入れた新潟米は15万トン。買い取り価格は非公表だが、1俵1万円で試算しても250億円は下らない。      

棚田は大幅な採算割れ 荒れる田んぼが急増

 なぜ、日本随一のブランド力を誇る産地のコメが売れなくなったのか。JA新潟の調査によると、5キログラム2200~2500円の新潟産コシヒカリの購買層は、04年の26%から06年は18%と急速に縮小した。こうしたすきを突くように「他県産の5キログラム2000円以下のコメがおいしくなり、新潟産コシヒカリにこだわる消費者が減った」(大手コメ卸)。1500円未満の激安米の購買層も、04年の13%から06年は29%まで急拡大している。

 さらに、5キログラム2800円以上の魚沼産コシヒカリの購買層も、2年前の8%から4%へ半減。「スケールメリットを追求して、ようやく生産費を1俵1万8000円まで削減できた。しかし、米価下落を見据えて、将来的には1万5000円まで削減しないと厳しい」(千手の柄沢社長)と生産者も危機感を募らせる。

 それでも赤字が出ないだけ、マシかもしれない。十日町市の山間部で棚田を耕す高橋幸一さんは窮状を訴える。「棚田だと生産費は1俵3万円かかる。しかし、どんなに頑張っても1人で耕すのは4ヘクタールが限界」。

 高橋さんの仙田地区では魚沼産コシヒカリを生産しているが、過疎と高齢化が進み、条件の悪い土地から耕作放棄地が広がっている。05年にはJA仙田支店がなくなった。08年にはAコープ(農協の販売店)の閉鎖が予定されており、まもなく地区には農協の店がなくなってしまう。

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