「仕掛学」は感染拡大を止める切り札になるか 身近な問題から社会問題まで解決する可能性

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このように、人々の行動を変えるきっかけになるものを私は「仕掛け」と呼んでいる。これらの仕掛けに共通することは、ある目的が「結果として」達成されることである。目的を達成するつもりはないのにいつの間にか本来の目的が達成されている。

そのような視点で仕掛けを眺めると実によく計算されていることがわかる。上記の例に限らず、このような行動を変えるための仕掛けは日常のいたるところで巧みに用いられている。

「仕掛け」は経済的にもお得

仕掛けは装置によって問題解決を図るのではなく、人々の行動を変えることで問題解決を図る。この発想の転換が仕掛けの肝であり、装置中心アプローチの視点を行動中心アプローチの視点に変えることで新しいアプローチが見えてくる。

装置による問題解決は自動化できて便利だとは一概にはいえない。導入コストが必要であり、さらにメンテナンスや修理といった維持コストも必要となる。装置によって機能が制限されるので、かえって不便を強いられることも多い。

ゴミの分別1つとってもいろいろな種類のゴミのすべてに装置で対応するのは困難である。人の行動を変えることで問題が解決するのであれば導入コストも維持コストもほとんどかからず、機能にも柔軟性が生まれる。

人がわずかな手間を肩代わりすることによって大きな便益が得られることは多い。

公共のトイレを清潔に保つことは身近な社会問題であり、さまざまな試みがなされている。この問題に対して自動洗浄装置や汚れにくい素材の開発といった装置中心アプローチが考えられるが、金銭的コストがネックになる。

一方、先の例のようにトイレに的をつけるのは、人の行動を変えることでトイレを清潔に保つ行動中心アプローチになる。

「仕掛け」により「ついしたくなる」ように仕向けることは、不確実性を含むので遠回りに見えるかもしれないが、正攻法が効かない場合には有望なアプローチになる。仕掛けは身近な問題から社会の大きな問題まで解決する可能性を秘めているのだ。

松村 真宏 大阪大学大学院経済学研究科教授

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まつむら なおひろ / Naohiro Matsumura

大阪大学大学院経済学研究科教授。1975年大阪生まれ。大阪大学基礎工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年より大阪大学大学院経済学研究科講師、2007年より同大学院准教授を経て現在に至る。2004年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校客員研究員、2012~2013年スタンフォード大学客員研究員。趣味は娘たちを応援することと、猫のひじきと遊ぶこと(遊んでもらうこと)。

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