社会保険を無視する人を待ち受けるひどい格差 コロナ禍を生きるには税や保障の知識が必要

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コロナ特例として認められる国民健康保険での傷病手当金は「雇われている人」が対象で、「雇っている人」は対象になりません。そのため、もし飲食店の店主などがコロナに感染すれば、売り上げが激減するうえに傷病手当金もない、廃業したところで保障もない、という状態に陥ります。

コロナという見えない感染リスクは、すべての人に等しく襲ってきます。健康上のリスクについては、筆者は専門家ではないので何とも言えませんが、経済的リスクに対するセーフティーネットが異なっているということは、多様化する現代の日本においては大きな課題なのではと思うのです。

「税と社会保障」の知識がますます必要になる

あえて「枠組み」から外れ、仕事をしたり暮らしたりしている「個人」もいます。気になるのは、そうした方たちに対して、時々厳しい言葉が投げつけられることです。

例えば前述の持続化給付金について、筆者がオンラインセミナーなどで「報酬を給与として受け取っていた個人事業主が給付を受けられないという問題も浮上している」と話したとき、「これまで給与所得控除を受けていたのだから、今売り上げが落ちて厳しいからといって泣き言をいうのはお門違いだ」といった指摘が返ってきました。

確かに、給与であれば、給与所得控除というみなし経費が最低でも年間65万円認められます。給与所得控除を領収書不要の経費と考えると、指摘は理解できます。しかし、だからといって、コロナ禍で売り上げがなくなったという方たちに手を差し伸べないというのは、どうなのでしょうか。

「枠組み」に寄りかかってきたような個人事業主の中には、コロナ禍で仕事がなくなり、いざ給付金申請の段になって初めて、報酬を給与として受け取っていたと知った方もいました。税務署への届け出が非常に稚拙で、納税意識の低い方もいました。

国の制度は基本的に「枠組み」ありきで制定されています。したがって、多様な生き方を選ぶ場合、「枠組み」をしっかり理解していないと、外れたときに不利益を被ることがあります。それは、自分が望んで多様な生き方を選んだわけではなく、選ばざるをえなかった人も同様です。

税金は英語でTAXですが、その語源はTICKETと同じで入場券の意味なのだそうです。社会保険料は支払いを義務化させることにより、罪悪感なく堂々と「権利」として給付が受けられるようにする配慮があるという話も聞いたことがあります。多様性が認められることはよいことですが、それに伴い、自分自身の社会との関わり方、端的にいえば「税と社会保障」についての知識をそれぞれがしっかりと持つことが、これからはますます必要になるのではないかと感じています。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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