アメリカの警察「スタンガン」重用への疑問符 テーザー銃の死亡例多く犠牲者は黒人に偏る

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だがロイターでは、一連の報道を通じて、警官が発射したテーザー銃による電撃を受けて死亡した例を2000年以降で1000件以上確認している。ただし、テーザー銃以外による実力行使も合わせて見られるのが普通だ。

テーザー銃に関する調査を行っている外部の研究者の大半は、適切に使用されれば死亡することはめったにないと述べている。だがロイターの調査によれば、多くの警官はテーザー銃の使用に伴うリスクについて適切な研修を受けておらず、誤った使い方をしていることが多い。テーザー銃は、ワイヤーで接続された2本の電極針を発射し、電撃を与えて相手の行動を封じるものだ。直接相手の身体に押しつけることもできるが、この「ドライブ・スタン」方式の場合は強い痛みが伴う。

近年テーザー銃が誤用された例をみると、この武器をめぐるリスクや混乱が浮き彫りになっている。

警官が電撃を与えている動画が全国的な批判に

ミネアポリスにおけるジョージ・フロイドさんの死亡をめぐる抗議が全米に広がった5月30日、アトランタの2人の大学生、タニヤ・ピルグリムさん(20)、メサイア・ヤングさん(22)は食品を購入するために外出し、抗議行動に伴う交通渋滞に巻き込まれた。

小型カメラの映像によれば、警官の1人が運転手側のサイドウィンドウを警棒で繰り返し叩き、別の警官がテーザー銃を使ってピルグリムさんに電撃を与えている。黒人学生2人を車から引きずり出す際に、3人目の警官がヤングさんに対してテーザー銃を使っている。

警官が2人に電撃を与えている動画は、全国的な批判を引き起こした。翌日、アトランタ警察のエリカ・シールズ署長は記者会見で謝罪した。「1つの機関として、また個人として私たちの振る舞いは許容できないものだった」と語った。ヤングさんは病院で治療を受けたが、傷口を縫う必要があった。13日、ブルックスさん死亡事件を受けてシールズ署長は辞任した。

5月30日の事件の後、ある警察官は報告書のなかで、学生たちが武器を所持しているか確認できなかったためテーザー銃を使用したと書いている。テーザー銃の製造元であるアクソン・エンタープライズは、各警察に配布しているガイドラインのなかで、運転中の人または拘束された人に対してテーザー銃を使用すべきではないと警告している。また法執行の専門家によれば、一般に、車内にいるなど身動きの取れない人に対してテーザー銃を使用すべきではないという。

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