1990年代にアメリカのハーバード大学のアンドレイ・シュライファー教授らが展開し、その後コンセンサスとして学会に確立した議論は以下のようなものであった。「コーポレートガバナンスとは、投資家の利益を守ることである。だがこうした利益を経営陣の暴走から守ることも、もちろんあるが、世界的、歴史的に見ると、この問題の重要性は低い。世界でのガバナンスの問題とは、外部少数株主の権利と利益を、議決権を支配している大株主から守ることであり、それがほとんどすべてである」、というものである。
全株主が平等に利益を得られるよう担保するシステム
アメリカやイギリス、日本においては、そのような現象はあまり見られないが、この3カ国は世界的な例外中の例外である。そして、経営者と株主の利益相反がほとんどないのは、大株主が経営者を選び、支配しているので、世界のほとんどの企業の経営者は、大株主の意向に基づいて行動しており、株主と経営者の間のガバナンスの問題はほとんど重要でない国が大半である、ということなのだ。
学会では、この見方が確立した後、コーポレートガバナンスの議論は、学問的には片付いたこととなり、研究は、世界中の各国で実際にこのような現象が起きていることを実証すること、そして、細かい各国ごとの法律や制度の違いにより、どんなことがおきているかを調べることが中心となった。
この観点では、グーグルの黄金株(創業経営者が議決権を株式数の保有比率を超えて、絶対的な水準で持つこと)などは、ガバナンス的には理論的には大きな問題であるという認識も共通している。グーグルは、いまのところ経営者が企業価値を最大化するように行動しており、一般株主の利益も尊重していることから、理論的には問題であり、将来の潜在的な問題として存在するが、現実としてはいまのところ問題ない、ということになっている。
そして、法律においても、きちんと救済されている。前述のような株主総会で一部の株主の反対にもかかわらず、重要な意思決定がなされた場合には、株主総会で反対した株主の株式については、その意思決定前の株価で買い取り請求を行うことができる、という具合になっている。これはおおむね多くの国(ガバナンスが適正に法律で守られている国)で共通だ。
したがって、株主総会は絶対とは程遠い。むしろ、大株主が少数株主の利益を奪って自分たちのものにする公式のチャンスなのである。だから、それに対して、十分な手当てを法律的に備えておく必要があるのである。
そして、ガバナンスの議論とは、株主同士の利害対立を防止し、企業価値を最大化し、すべての株主が、平等に利益が得られるように担保するシステムの議論なのである。
株主総会シーズンをそういった目で見ると、これまでメディアで「素晴らしい経営者」とメディアで賞賛されている人々のうち、少数株主の利益を損なうことを厭わない者が一定数いることがわかるはずだ。そして、世間ではそれが見過ごされていることに気づくであろう(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレース予想や競馬を語るコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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