神戸のパンダが20年ぶりに中国へ帰る背景事情 高齢を理由に「契約の延期」ができなかった

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パンダの飼育にはお金がかかる。タンタンに1年間でかかる主な費用のうち、「日中共同飼育繁殖研究」のための支援金は年25万ドル(約2700万円)。コウコウがいた時は2頭で年100万ドル(約1億0700万円)だったが、タンタン1頭となり繁殖できないため下がった。

このほか、エサの竹代の約900万円、保険料の1236万8160円なども必要だ。コウコウが2010年に急死した際は、賠償金50万ドル(当時のレートで約4000万円)を保険金で中国側に支払った。

王子動物園の収益は厳しい。直近で決算を開示している2018年度(2018年4月~2019年3月)は、6億4538万円の市税を投入した。単純計算で神戸市民一人当たり421円の税金を投じたことになる。

これは、コスト(施設の修繕費や飼育費、人件費など)の11億1158万円を、入場料などの収入だけで賄えないためだ。園内には売店とレストランもあるが、入札で選ばれた民間企業が運営している。王子動物園の直営ではないので、園の収益にはほとんど貢献しない。

入場料の値上げも難しい

入場者数は、タンタンとコウコウが来た2000年度に198万7000人となり、前年度の倍以上に増えた。ただ、2018年度は108万7572人に減っている。2020年度はさらに減る見通しだ。コロナ対策で約2カ月間に渡り休園し、多くの入場者が見込まれる桜の開花時期とゴールデンウィークを棒に振った。王子動物園は6月1日に再開したが、コロナ対策で入場者を制限している。タンタンがいなくなれば、入場者はさらに減るだろう。

一方で、休園中もエサ代や人件費はかかるので、支出を大きく減らすことは難しい。入場料は大人が1日600円で、海外の動物園と比べ、かなり安い。そのため市議会で値上げの案が出たこともある。だが、「パンダがいなくなると値上げは難しい。新たにほかのパンダが来たとしても、『水を差すのか』となって、上げづらいだろう」と上山園長は話す。

民間企業が運営し、6頭のパンダを飼育するアドベンチャーワールドは、5月21日にクラウドファンディングを始めた。第1目標の500万円には開始20分で到達。第2目標の5000万円も開始8日目でクリアした。こうした資金集めも1つの手段かもしれない。

新たなパンダが王子動物園に来るか、現時点では決まっていない。王子動物園のほか、大森山動物園(秋田市)、八木山動物公園(仙台市)、日立市かみね動物園(茨城県日立市)もパンダの受け入れを希望している。

それぞれの動物園や自治体の担当者は、前述のパンダに関する国際会議も成都で聴講しており、パンダ誘致に力を注ぐ。もし中国の習近平国家主席が今年4月に来日していれば、パンダ誘致が前進する可能性があった。だが新型コロナで、習主席の来日は延期された。

タンタンはこれから中国へ行くまでの間、どのように過ごすのだろう。まず、出発までの約1カ月間は検疫を受ける。検疫は室内で行うので、屋外でタンタンを見ることはできなくなる。王子動物園は中国側と協議して、検疫中も観客が室内でタンタンを見られるようにした。

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