神戸のパンダが20年ぶりに中国へ帰る背景事情 高齢を理由に「契約の延期」ができなかった

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「王子動物園としては、タンタンを中国に返すとは一切言っていません。タンタンの契約継続と新たな雄雌のパンダの貸し出しをセットでお願いしてきました」(上山園長)。実際、神戸市と王子動物園は、タンタンの滞在延長に向けて、あの手この手を尽くした。

市長や園長は訪中して、CWCAと交渉。駐日中国大使館にも出向いた。四川省・成都で開催され、世界中からパンダの研究者が集う国際会議には、王子動物園の獣医師が登壇して、タンタンの飼育について英語でスピーチした。王子動物園内でも、パンダに関する講演会や特別展を開催して、来場者のパンダに対する理解を深めたり、研究実績をアピールしたりした。

2019年4月には、主にパンダを担当する飼育研究員を臨時採用した。1年ごとの契約で、今年4月に契約を更新している。飼育研究員とは別に、10年以上にわたりパンダを担当するベテランの飼育員が2人おり、四川省にある中国ジャイアントパンダ保護研究センター(CCRCGP)の雅安碧峰峡基地で研修を受けたこともある。

超音波検査で病気を予防

高齢のタンタンへの対応も細やかだ。毎日トレーニングしており、週2日は獣医師が立ち会う。お腹の触診、聴診、体温測定、点眼や、採血の練習もする。「いきなり針を刺すと嫌がる場合があるので、先を丸めた針でツンツンして、普段から刺激に慣れさせます。このほか、日によってメニューが変わりますが、血圧測定や超音波(エコー)検査などもしています」と、飼育展示係長・獣医師の谷口祥介さんが説明してくれた。

王子動物園飼育展示係長・獣医師の谷口祥介さん(筆者撮影)

超音波で検査するのは心臓、膀胱、肝臓、腎臓。心臓疾患など、高齢のパンダに多い病気の早期発見と予防のためだ。高齢のパンダは高血圧にもなりやすい。タンタンは超音波検査も血圧測定も正常で、健康とのことだ。

高齢になると歯のトラブルも増えるので、口の中も普段からチェックしている。タンタンの歯は少し摩耗している。摩耗のスピードを落とすために、なるべく竹の稈(かん:茎の部分)を与えるのを控えたり、ハンマーで割いてから与えたりしている。食事は竹が中心。竹は、神戸市北区淡河(おうご)町産で、園内でもごく一部を栽培している。

食べ物にも気を配る。タケノコは年間を通して与えている。高齢で堅い竹を噛みづらい時があるタンタンに、柔らかいタケノコで栄養をつけるためだ。食欲がない時でも、好物のタケノコなら食べられる。タケノコは、春~初夏に淡河町や園内で採取する。それ以外の入手しづらい時期も、中国からの輸入などで集め、タンタンにあげている。筆者が今年1月2日に王子動物園へ行くと、タンタンがタケノコをほおばっていた。

竹のほかには、ビタミンやミネラルが入ったアメリカ・マズリ社製の草食動物用のペレット、リンゴ、ニンジンも食べさせている。トウモロコシ粉で作る「パンダ団子」は、タンタンの来園当初は与えていた。だが、海外の動物園で食べ過ぎたパンダがお腹を壊したので、与えるのをやめた。

最近はトウモロコシ粉と竹粉で試作したパンダ団子を与えることもある。将来、タンタンの歯が悪くなって、竹を食べづらくなった時を見据えた対応で、まさに至れり尽くせりだ。

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