北朝鮮、連絡事務所「爆破」に出た本当の理由 実利と感情で韓国に仕掛けた正面突破作戦

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北朝鮮の対韓国政策は、「朝鮮半島のことは朝鮮半島の当事者だけで決める」のが原則だ。自分たちのことは南北で決めればいいのに、韓国はアメリカの顔色ばかりうかがっている――。

そんな気持ちが積み重なり、「北朝鮮は韓国を信頼できない」と見なしている。それもあり、正面突破戦で事態を打開し、朝鮮半島情勢の主導権をしっかりつかむためには強硬手段に訴えてもかまわない、と考えた。

連絡事務所爆破の翌17日、北朝鮮は朝鮮人民軍総参謀部報道官発表を伝えた。開城工業団地と金剛山観光両地区への軍部隊の展開と、2018年の南北軍事合意で撤収した南北非武装地帯への監視哨所の再設置、黄海上の南北境界地域への軍部隊の増強、韓国向けのビラ散布などを行うことを明らかにしている。これは、融和ムードに包まれた2018年以前の安全保障環境に後退することを意味する。

なぜ金委員長が前面に出ないのか

しかも、報道官発表に記された内容は、過去に発生した軍事挑発と重なる部分があり、口先だけの脅しと受け止めるのは危険だ。金正恩政権になった2012年以降、最も強硬な姿勢で韓国への正面突破戦を仕掛ける可能性が高い。

朝鮮半島周辺では、米中対立の深化や2020年11月のアメリカ大統領選挙など、今後の情勢を不安定にさせる要素が存在している。不安定化した情勢の間隙をついて、正面突破戦で北朝鮮自らの立ち位置を広げようとしている。韓国やアメリカ、日本も、これまで述べてきたような北朝鮮の行動の背後にある内在論理をきちんと見極めて対応しないと、思わぬ情勢悪化や武力衝突といった危機状況に陥る可能性がある。

不透明な点が1つ残る。今回の事態の前面に出ているのが、金正恩委員長でなく、金与正氏であることだ。その理由ははっきりしないが、本来であれば、金正恩委員長が前面に出てくるはずだ。

北朝鮮からすれば、現在の体制上、金与正氏が出てくることに合理性があるのかもしれない。あるいは、金委員長が金与正氏にかなり高度な権限まで与えているのか。そこがわからない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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