北朝鮮、連絡事務所「爆破」に出た本当の理由 実利と感情で韓国に仕掛けた正面突破作戦

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正面突破戦とは、「北朝鮮を取り巻く厳しい環境において経済面でも外交面でも現状を打破するための指針」と言える。「主力前線は経済前線」と言及しており、国際的な経済制裁で窮地に追いやられている経済状況を自らの手、すなわち自力更生・自給自足で突破していこうというものだ。

それは、経済制裁の解除・緩和といった対外環境の変化を黙って待つのではなく、自らよい環境を作り出すために積極的に行動していくという考えでもある。

ところが、正面突破戦を実行しようとした矢先に、中国での新型コロナウイルスの発生・拡散というハプニングが生じた。1月末には国境を封鎖し、新型コロナの流入を防ぐといった徹底的な防疫体制を取らざるをえなかった。そのため、2~5月に正面突破戦を実行できなかったのではないか。この間、「自国に新型コロナ感染者はいない」と主張する一方で、防疫事業を全国で繰り広げている様子は、北朝鮮メディアで連日のように報道されてきた。

根底にある文在寅政権への不信感

5月24日に党中央軍事委員会拡大会議、6月7日に党政治局会議の2つの重要な会議が開かれている。両会議の性格は異なり、発表された内容に具体的な言及はないが、韓国に対する正面突破戦の中身もここで議論されたのではないか。

さらに、韓国への対応の根底には、文在寅政権に対する北朝鮮の強い不信感が横たわる。その不信感は、6月13日の金与正談話で「2年間もできもしなかったことを直ちにやり遂げる能力と度胸がある連中ならば、北南関係がこれまでのような姿であろうか」と述べた点からもうかがえる。

2018年以降行われた3回の南北首脳会談で、さまざまな合意事項が生まれた。北朝鮮からすれば、「(この2年間)韓国は合意や約束をまったく実行していない」と考えている。

例えば、北朝鮮内の開城工業団地の再稼働や金剛山観光事業の再開、南北道路・鉄道の連結といった合意を実行に移そうとすれば、北朝鮮の非核化を究極的な目標とするアメリカと国連が主導する経済制裁に抵触する部分が多い。韓国はそれでもやれると当時は考えて合意したのかもしれないが、現実的に実行するのは厳しい。

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