自粛でフランス人に起きた劇的「価値観シフト」 不便を受け入れる一方、取捨選択進む

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人間関係でもそうです。東京でも同じだと思いますが、パリのような大都会ではこれまで近所同士の関係はあまり深くありませんでした。それが、コロナ危機後、近所同士の連携が深まりつつあります。例えば、あるときアパルトマンの入り口に、「日用品の買い物が必要な場合は声をかけてください」と、名前と連絡先が書かれた貼り紙がされていました。これに一人暮らしのマダムが反応し、これを機に2人は信頼関係を深めたといいます。

また、ある集合住宅では、中庭にある木の下に、それまで知り合うことのなかった住民が集まるようになり、若い夫婦がそれぞれの子どもを介して会話をするように。今でも仲良くしているといいます。

よりエコでサステイナブルな生活に

環境や自然に対する考え方も変わりつつあります。コロナによる外出禁止によって、大都市はかつてなかったほどの静寂に包まれ、空や空気は澄んだように感じられました。そして、これまでわざわざ時間をとってみようとしなかった自然やその匂いを感じられるようになりました。

以前、交通機関の長期ストライキによってパリ市民の習慣がどれだけ変化したか、そしてそれによって、多くのパリ市民が自転車を使うようになったのかを書きましたが、今回のコロナ危機でいっそう「自転車シフト」は進みそうです。多くの人が地下鉄やバスでの人との接触を恐れているほか、環境を維持するために交通量を減らしたいと考えるようになったからです。パリ市長も自転車優先道路を積極的に増やしています。

消費にも変化が出始めています。これまでより買い物の量やゴミを減らす一方で、今あるモノを大事に使おうと考えている人が増えているのです。「古いものを大事に使う」というのはフランスの大事な価値観の1つですが、最近はサステイナビリティーの観点からもこうした考えが広がりつつあります。古いものを大切にするのと同時に、自分で何かを作ったり、壊れたものを修理したりという動きも広がっています。

さて、フランス人にとっていちばん大事なもの「アムール(愛)」はどうでしょうか。近頃では新しい出会いは難しくなっています。前述のとおり、ウイルスは今もまだ潜んでおり、人々は警戒しながら生きているのです。それでも、愛は廃れるどころか、さらに大事なものとなっています。家族への愛、他者への愛、そして感情としての愛が、かつてないほどフランス人の中にあふれているのです。

年齢とは関係なく、愛を感じることはできます。愛する人々や、好きなもの、好きな場所、好きな仕事――そうしたものに囲まれることこそ、理想的な生活です。それが可能であれば。

現在、世界的に私たちは経済的、社会的に危機的な状況に置かれています。しかし、だからこそ今は、「好きなことだけで生きる」という理想的な生活を模索するときでもあるのです!

ドラ・トーザン 国際ジャーナリスト、エッセイスト

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Dora Tauzin

フランス・パリ生まれの生粋のパリジェンヌ。ソルボンヌ大学、パリ政治学院卒業。国連本部広報部に勤務ののち、NHKテレビ『フランス語会話』に出演。日本とフランスの懸け橋として、新聞・雑誌への執筆、テレビ・ラジオのコメンテーター、講演会など多方面で活躍。著書に『フランス式いつでもどこでも自分らしく』『パリジェンヌはいくつになっても人生を楽しむ』『好きなことだけで生きる』などがある。2015年、レジオン・ドヌール勲章を受章。公式ホームページはこちら、 Facebookはこちら

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