まじめな教師を休職に追い込む4つの深刻問題 心の不調を抱えながら勤務する先生も多い

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教員のストレスの最大の原因は、やはり、「仕事の総量の多さ」にあるのです。これだけ労働時間が長いと過労死のリスクも当然高まってしまいます。それに加えて、周知のように教師はいくら頑張って仕事をしても残業代が出ません。

教員の給与を定めた給与特別措置法、通称給特法(1972年施行)に、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」と定められています。厳密に言えば、「教職調整額」というものが加味されているのですが、これは一般公務員の残業代の3%程度。どれだけ残業しても、一定額のわずかな教職調整額が支払われるだけです。これではやりがいをそがれても仕方がないでしょう。

教師同士の支えあう関係作りも困難に

②学級経営、子どもへの対応の困難さ

近年、発達の偏りがある子ども、傷つきやすい子どもや、かんしゃくを起こしやすい子どもが急増しています。これまでと同じ指導は通用しなくなっているのです。個々の子どもへの対応ばかりでなく、学級集団への対応も困難化しています。

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③保護者対応の難しさ

「学級経営、子どもへの対応の困難さ」と「保護者対応の難しさ」は、分かちがたい問題です。傷つきやすい子どもたちは、教師の叱責に敏感で、「あの先生が怖い」と保護者に伝えます。すると、それが保護者からのクレームにつながるのです。

「傷つきやすい子ども」の背景には、「傷つきやすい保護者」が存在しています。その傷つきやすさは、激しい攻撃性を持つクレームへ転化して、教師を追い詰めていくのです。

④同僚や管理職との人間関係の難しさ

とりわけ、「管理職との関係の難しさ」には、「教師の仕事全般に世間から向けられるまなざしが格段に厳しくなってきている」ことが関連します。どの職場もそうですが、管理職は人事考課をしなければいけなくなりました。また、部下を評価する管理職自身も委員会から厳しく評価されます。そのため、ミスを犯した部下を、管理職が擁護することが難しくなっているのです。

教師の「自己管理」「自己責任」がより強く求められるようになり、教師同士の支え合う関係づくりが困難になってきました。職場が働きやすい環境かどうかは、人間関係が大きく左右します。教師同士の間で支え合える関係づくりができるかどうかが、教師の働き心地の鍵を握っているのです。

諸富 祥彦 心理カウンセラー
もろとみ よしひこ / Yoshihiko Morotomi

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。イギリス・イーストアングリア大学、アメリカ・トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、助教授(11年)を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。時代の精神(ニヒリズム)と「格闘する思想家・心理療法家」(心理カウンセラー)。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会理事、日本産業カウンセリング学会理事、日本生徒指導学会理事。教師を支える会代表、現場教師の作戦参謀。臨床心理士、上級教育カウンセラー、学会認定カウンセラーなどの資格を持つ。

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