アメリカの株式市場は再び暴落する懸念がある 5月雇用統計「超サプライズ」に潜む数字の罠

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一方、企業調査に関しては、家計調査のような混乱は見られなかったようだ。だが、非農業部門雇用者数が予想外の大幅増加となったのは、PPP(Paycheck Protection Program=給与保障プログラム)などに代表される、政府による緊急雇用維持政策の影響によるところが大きいと推測される。

PPPは雇用の維持を目的とした、中小企業に対する融資プログラムで、商業銀行を通じて申請を受け付け、資格を満たす企業に対してはそれまでの雇用実績に応じて融資が行われる。

最大の特徴は、将来にわたって雇用をしっかりと維持し、なおかつ融資額の75%以上を給与の支払いなどに使用すれば返済が免除されるという点で、事実上、補助金の意味合いが強い。当然ながら施行されると申し込みが殺到、短期間で融資枠が上限に達したために慌てて融資枠の拡大が承認されたことや、上場ハンバーガーチェーンのシェイクシャックがこれを申請、1000万ドルを超える融資を受け取ったことが明らかになり、のちに同社がこれを返済するという騒動に至ったことは、記憶に新しい。

「謎」を解くカギはPPPにあり

PPPを利用してひとまず従業員を確保しておき、ロックダウン(都市封鎖)が緩和された際にスムーズにビジネスを再開できるようにしておこうと考えた経営者が多くいたことは、容易に推測できる。

本来であれば解雇されたはずの従業員の雇用が、PPPによって維持されたのだから、雇用対策としては大成功のプログラムだったと言っても過言ではない。5月に非農業部門雇用者数が予想外の大幅増となったのは、こうしたPPPによる雇用維持の影響が、大きかったのではないか。

その場合でも、ある程度の給与の減額は行われたのだろうが、たとえ以前の半分になったとしても、給与の支払いが行われている限り雇用は維持されたということになる。非農業部門雇用者数と並んで重要視される指標である時間当たり賃金は、4月に前月から4.71%と大幅に上昇したが、5月には一転して0.97%の低下となった。

4月の急上昇は、給与水準の低い従業員から解雇されたことの影響が大きかったと見られているが、今回の賃金の低下は、こうした形で給与水準を引き下げてでも雇用の維持を優先したことが、影響しているのではないだろうか。

一方、従業員は、たとえ雇用が維持されていたとしても、給与が大幅に減少した場合には、その差額分の補償を求めて失業保険の申請を行うことができる。1週間に200万件近いという、記録的な失業保険新規申請のペースが維持されていたにもかかわらず、非農業部門雇用者数が増加した背景に、PPPがあったことは間違いない。

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