コロナワクチンの開発が何とも進みづらい事情 収束で消える「感染地帯」、治験最前線の悩み

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アストラゼネカと提携している英オックスフォード大学ジェンナー研究所のエイドリアン・ヒル所長は、先月フェーズ2治験を開始した。英国内で約1万人の参加者を募りたいとしている。

ヒル所長はロイターに対し、英国ではCOVID-19の感染率が低下しており、結果を得るのに十分な感染が見られない場合には治験を中止せざるをえないだろうと語った。

「そうなれば残念だ。現時点では大丈夫そうだが、確実にその可能性はある」とヒル所長は言う。

リスク高い「チャレンジ」治験も

製薬業界における懸念の高まりを裏付けるように、アストラゼネカのパスカル・ソリオットCEOは、同社の研究者らが、いわゆる「チャレンジ」治験の実施さえ検討中だと語る。

参加者に試作ワクチンを投与した後、効果を確認するために人為的に新型コロナウイルスに感染させる方法だ。こうした治験はめったに行われず、リスクは高く、倫理面での承認を得るのも難しい。

もっと現実的で手っ取り早い方法もある。ソリオットCEOなどの人々は、治療薬・ワクチンの治験に適した場所として、COVID-19の感染拡大がまだ続いており、ピークに達していないブラジルをはじめとする南米諸国、アフリカの一部諸国に注目している。

ブラジル保健省は、モデルナやオックスフォード大学などさまざまなワクチン開発者を相手に、治験参加に関する協議を進めている、と話している。ブラジル保健省は、ブラジル国民が「できるだけ早い時期に」ワクチンを利用できるようにするのが目標だと言う。

パンデミックが衰えつつある諸国でワクチンのフェーズ2治験に向けた参加者を集めることの難しさには、すでに前例がある。ジェネリック薬剤ヒドロキシクロロキンやギリアドの「レムデシビル」など、COVID-19に関する有望な治療法に関して世界保健機構(WHO)が試みた多国間での「ソリダリティ(連帯)」治験のケースだ。

この治験に参加したスイスでは、当局から倫理面・規制面での承認をすべて揃えるのに3週間を要し、すべての治療薬を入手するのにさらに1週間を要した。感染症専門家として「ソリダリティ」調査スイス担当コーディネーターを務めたオリオル・マニュエル氏が語った。

「ローザンヌ(のある治験センター)では、何人かの患者を集めることができた」とマニュエル氏は言う。「だが、すべてのセンターで準備が整う頃には、幸か不幸か、症状はすでに消えてしまっていた」

(Kate Kelland and Julie Steenhuysen、翻訳:エァクレーレン)

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