荷物激増の配達員たちが何とかパンクしない訳 宅配ドライバーの告白、コロナ禍の意外な恩恵

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幸いなことに、今回は東日本大震災のときのようにはならなかった。荷物の量自体は東日本大震災に匹敵するくらいの量にもかかわらず、パンクするまでに至らなかったのだ。

緊急事態宣言により外出は控えられ、街は静寂と化し、道もスカスカ、物理的な損害はなく東日本大震災のような交通難による荷物の遅れはなかった。そして、外出自粛後の緊急事態宣言により在宅率が大きく増えたことにも大きな要因があった。

緊急事態宣言が宅配便崩壊をとどめた

「普段は、いつも2割から3割くらい不在の荷物なんですが、今の時期に限っていえば、1割もないくらいですね」

大手宅配会社の若手ドライバー、嶋田和也さん(仮名)の表情は、マスクで口元はうかがえないものの、目を細め目尻が下がっていた。

緊急事態宣言による休業や外出自粛により、在宅率がかなり増えた。また、居留守を使うような機会もかなり減ったようだ(宅配ドライバーは、経験により在宅確認ができるらしい)。消費者が本当に必要な商品を求めていたからだろう。

ただ、何も在宅率の高さだけが、宅配業界が崩壊に至らなかった要因ではない。

個人差や地域差もあるが、都会のように家が密集しているところだと普段1時間の配達個数は平均15〜20個。つまり1時間当たり1個の宅配に要する時間は3〜4分である。

一方で、今回のコロナ禍においては感染拡大防止策として接触を避けた置き配(各社一定の条件あり)や受領印の省略、ノーサインによる引き渡しが増えた。それにより、1個当たりの配達時間が大幅に縮まり、1時間当たりの配達個数も増えていったのだ。不在も少なく不在票を書く手間も省かれ、生産性も上がる結果となった。

国土交通省総合政策局物流政策課の宅配便再配達調査によると、1年前の2019年4月の不在率は16.0%であり都市部では18.0%であった。この数字は前年2018年度の15.0%を上回っており、減少どころか増加の一途をたどってきた。宅配業界は再配達問題や働き方改革により、宅配ボックスの増加、受け取りサービスの拡大などの改革を進めてきたが、それでも飛躍的な解決には至らなかったのである。

国土交通省の「総合物流施策推進プログラム」において宅配便の再配達率の削減目標を2020年度には13%に目標を定めた。そして、皮肉にも今回の未曾有の事態をきっかけとして達成されようとしている。不在対策はともかく、置き配や受領印の省略、ノーサインなど、コロナ禍に対応して生まれた宅配を効率的にする仕組みは、仮に事態が収まったとしても残していくことが望ましいだろう。

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