三宅:そういうマネジメントのやり方は、ヨーロッパ時代、ずっと意識していたのですか。
坪内:最初の3年から5年ぐらいは、どうすればいいかわからずに、先輩たちを見て、「ああ、うらやましいな、ああいうふうになりたいな」と思っていましたけれど、なかなかなれませんでした。
三宅:2009年にヨーロッパを後にしたわけですが、その頃にはかなりできるようになっていましたか。
坪内:まあ、ある程度できるようになっていたと思います。ただ、本心から日本人の言うことを正しいと思って聞いていたかどうかはわからないですよ。やっぱり取締役営業本部長の権力というものがありましたから。「しょうもないやつだけど、聞いといてやろうか」と思っていたのかもしれないですね(笑)。
三宅:どちらかというと、力で従わせるよりも、尊敬されるような上司を目指されていたのでしょうか。
坪内:というよりも、私にはそれしか取り柄がないのです。人より早く会社に来て、多くの情報を寄せてくれる部下の書類にすべて目を通し、「自分はこう思う、こうしてくれ」と書く。困っていたらそこに行って一緒に考え、本当に間違っているときは大きな声でしかり、価格についても、これは受けられないというときは、きっぱりとノーと言う。こういうことを続けているうちに、だんだんとできるようになってきました。
まずは、「聞く」こと
三宅:チームをマネジメントするときに、そのほかに心掛けていたことはありますか。
坪内:まず聞くことです。否定せずに聞く。仕事に慣れて来ると、じっと聞く辛抱ができずに、途中で遮ってしまいがちですが。
三宅:あれをやれ、これをやれ、ではなく、まず聞く。ということですね。
坪内:もちろん方向や方針も出します。しかし、私ひとりが独断で出すのではなく、みんなで意見を言い合って、その中から決めます。リーダーの仕事は結局、決めるということなのですよね。決めたらもう、“No discussion”と言います。
三宅:なるほど。
坪内:もっとも“No discussion”だけではプライドを傷つけますので、十分、議論をした後で、“No MORE discussion.(もう議論しません)、Decided(決定です)”と言う。やっぱりその前によく聞くことが大事です。これは日本も同じですね。会長の井上は、「衆議独裁」と言っています。
一方で、意見を聞くけれども、それだけでなく、自分だったらどうするかをつねに考えていなければいけません。必ず現地人は「ボスならどうしますか」“If you were I(もしあなたが私だったら)”と言うのですよ。こう言われたら、だいたい最初は、“I’m sorry. I’m not you.” とちょっと切り返します(笑)。その後で、“If I were you, ~~”と自分の考えを述べる。このアイデアを必ず持っておかないといけません。
難しい課題を与えられると、みんな悩みます。私はそれに対して、どういうやり方があるだろうかと、みんなに問いを投げかける。しかし、自分の意見も持っておかないと、「ああ、この人は自分では考えずに人の考えを聞いて、そこから選ぶだけなのだ」と思われる。これではやっぱり尊敬されないと思いますね。
部下の自主性を重んじるために、自分から先に「俺はこう思う」と言うことはないけれど、不意に部下から「ボスならどうしますか」と聞かれても、「俺ならばこうするよ」と答えられるようにしておく。そうすると部下は、「ボスは口に出さないけれど、ずっと考えているのだな。そして部下から上がってくる案のうち採用されたものが、たぶんボスの考え方に近いのだろうな」と考えるようになります。
三宅:なるほど……。深いですね。
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