リストラの要諦
坪内:これは小さい組織だからできることです。やはり事業をやるには、適正な事業規模というものがあるのではないでしょうか。
たとえば私が畑違いの事業に関して、そういう提案ができるかといえば、非常に難しいと思います。一般の経営の原則に従ってアドバイスするしかないのです。ただ空調事業に関しては、今までの経験といろいろな取り組みから解決策の提案もできます。たとえばダイキンのように化学事業もある、中国の空調事業もある、国内事業もある、油機の事業もある企業で、これを束ねる経営者というのは、さらに一段と研ぎ澄まされた経営の根本というか、原点に立ち戻って判断できるような価値観を持っていないと無理でしょう。だから事業家と経営者とは違うのではないかと思います。
もうひとつ、事業家は、事業をする楽しみがありますよね。自分のこの事業で人を救いたいとか、自分の夢が実現できるとか。ただ経営者になると、それだけではなくて、稲盛和夫さんが言うように、社員の物心両面での全体的な幸せを追求するというような、さらに一段と高いレベルになります。だからもし事業家になり、事業家から経営者になったら、少しは天国に近づくかなと思っています。私は今までたくさんリストラをしてきましたので、天国に行けずに血の池地獄に突き落とされるかもしれません。ですから、いつも社員に言っているのですよ。「君な、僕より先に行ったら、せめて蜘蛛の糸ぐらい垂らしてくれ」と(笑)。
三宅:そうですね。坪内さんならみんなが垂らしてくれそうです(笑)。坪内さんはいつ頃から、経営者目線での志を持つようになったのですか。
坪内:そうですね。経営破綻した九州の代理店の再建に入った頃からですね。やっぱり社員のリストラというつらさがありました。小さな会社の再建ですら苦しみの連続でしたから、会長の井上礼之や前会長の山田稔が乗り越えてきた昭和49年のオイルショックや、それ以前のいろいろな苦難は、想像を絶するものがあります。
その代理店には約140人の人員がいたのですが、いったん全員を解雇のうえ、あらためて何人か採用して、新しい会社を作ろうということになりました。100人前後ならば、何とか新しい会社は成り立つと試算できたので、当時の社長の井上に、「90~100人体制でやります」と言ったら、ものの見事にしかられましたね。「その90人や100人で失敗したらどうする。またリストラをするのか。2回やると、もう社員はついてこないよ」と。これで最後だと思うからこそ、新しい会社で死にものぐるいで働くのであって、次に同じことがあったら今度こそ本当に会社は終わりだと。だからできる限り多くの人を残したいだろうが、あえて70人にしなさいと言われました。最終的には80人近くになったと思いますけど、かなり減らしましたね。
三宅:しかも、いったんは全員を解雇した後に、80人弱を再雇用した形にしたのですね。
坪内:できるかぎり多く救いたいと思いましたが、井上の判断は違いましたね。まずはとにかく絞って、それで100%再建をする。そのうえで人が足りなければ増やしていくべきだ、これが人員整理の要諦であると。それは過去の経験から言えることなのですよね。
ですから私も今、海外でいろいろあったときは、「いったんは人数を少なくしなさい。それから再スタートしなさい」と言っています。特に、業績が悪いときに社員全員で「乏しきを分かち合う」気概というか、了解ができているかどうかが重要です。それがないと、ちょっと忙しくなると安易に人を雇い、ちょっと業績が下がると、「なんで給料が上がらんのや」と社員の間に不満がたまります。
事業というのは、いつ何時、何が起きるかわかりません。そんなとき社員をリストラせずにみんなで乗り切るために、「乏しきを分かち合う」気持ちが大事です。その気持ちがあるならば、「今は攻めるべきチャンスだから先行投資として何人採用しましょう」などと、社員と対話をしながら決めていくことができるのです。結局は人ですからね。
(構成:長山清子、撮影:梅谷秀司)
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