経済学が示す「コロナ感染」への有効な防止策 人々はどれだけ自発的に社会的距離を取ったか

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検証した8つの可能性の中で最もわれわれのデータと整合的だったのは、高卒者は感染リスクに対する情報量や予想感染リスクが低く、これがソーシャル・ディスタンス行動の障害となっているという解釈であった。高卒者と比べて大卒者はニュースや新聞を確認する頻度も多く、われわれのアンケートにおける「新型コロナウイルスが、自分に直接関係のある問題だと感じますか?」という質問に対しても「強く感じる」と回答する傾向があった。

また、「現時点で、日本で新型コロナウイルスに感染している実際の人数はどれくらいだと思いますか?」という質問に対しても、大卒者の予想人数は高卒者より顕著に多かった。さらに、そのような予想をする人々ほど、対面での会話や外食を自粛していた。このほか、学歴間での所得格差がソーシャル・ディスタンス格差を生み出している可能性を示唆する結果も得られた。

感染リスクに対する危機意識を高く持つことの重要性は、アメリカの事例でも報告されている。ドナルド・トランプ大統領は感染拡大初期から、新型コロナウイルスの脅威を「インフルエンザ程度」「コントロール下にある」など、過小評価する発言を繰り返してきた。最近の研究によると、こうした発言の結果、トランプ支持者の多い地域では人々がウイルス感染に関する報道に対して関心を示さず、感染拡大後も長距離の外出をしていた。

経済的弱者の感染リスクが特に高い

われわれの分析によると、政府が経済活動の再開を優先し、再び国民の自主的なソーシャル・ディスタンスに依存した対応を取った場合、低所得・低教育水準といった経済的弱者の感染リスクが特に高く、また彼らがさらなる感染拡大の原因となってしまう可能性を示唆している。したがって、将来の感染再拡大回避と経済活動とを両立させるには、こうした人々に対するサポートを迅速に進める必要がある。

具体的には、低所得層への経済的支援を行うほか、マスメディアが専門用語(ソーシャル・ディスタンスという表現も含め)を用いずに報道するなどして、人々の感染リスクに対する意識を高める努力をすることも有効かもしれない。また、近年政策立案の現場でも注目されている、行動経済学のナッジを用いたアプローチへも期待したい。

【2020年7月13日19時35分追記】初出時に編集部が考案した記事のタイトルを筆者考案のタイトルに差し替えました。併せて記事の一部の表現を修正しました。

庄司 匡宏 東京大学社会科学研究所准教授

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しょうじ まさひろ / Masahiro Shoji

東京大学で博士号(経済学)。専門は開発経済学、実験経済学。東北の被災地や南アジアで独自に収集した家計調査データ・実験データを用いて研究する。著書に『災害復興とその課題に関する経済学的考察—途上国からの教訓—』など。

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