コロナ後に「指示待ち社員」が絶滅する根本理由 ユニクロと米海兵隊に通じる「成長の方程式」

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絆づくりができたら、次は、創造性回復を目的としたアート・ワークショップによって、未知なる感性を導き出し、お互いの深層心理を感じ合う。

実際にワークショップを行った、ある一部上場企業の経営チームでは、開始時には「何でこの歳になって絵描かなあかんねん」と怒りをあらわにしていた役員たちが、徐々に夢中になり、互いの作品を鑑賞して、その背景にある思いを吐露し合ったという。最後には、みんなが会社に対して強い思いと情熱を持っていることが共有され、ピリピリしていたはずのナンバー2の専務が「しらふでパンツ脱がされましたわ」と感嘆している。

そして仕上げは、アリストテレスの3要素「ETHOS(信念)」「LOGOS(専門性)」「PATHOS(共感)」を用いて、自分の人生や価値観について問いかけ、いよいよ自身の「志」を結晶化、言語化する作業だ。

この段階では、人生曲線やアートを介したコミュニケーションによって、チーム内における相手の内面理解がかなり進んでいる。単にお互いの「志」を肯定するだけでなく、「あなたはこういう人なのに、こんな志でいいのか?」というような建設的なフィードバックが出ることもあるという。

ここまで来れば、本人が「よし、本気でやり抜いてみよう」という思いを持つことにもつながるし、その本気を後押しする仲間がいるという勇気も獲得している。かなり壮大な人と組織の大改革だ。

ユニクロ「全員経営」の本質

宇佐美氏の手法は、ユニクロの人材育成機関の責任者として実践してきたことに裏打ちされたもので、説得力がある。バックボーンには、もともとユニクロの門外不出のバイブルで、2016年に市販されベストセラーとなった『経営者になるためのノート』(柳井正著)が組み込まれてもいる。ノートを徹底実践した体験を持つ宇佐美氏は、そのエッセンスを抽出して「リード・ザ・ジブン」として伝承する。

ユニクロでは、1人の経営者が全世界を指示するのではなく、現場の知恵を生かしながら、全員でいちばんよい方法を見つけて実行していくという「全員経営」という基本思想があり、経営者、店長、店舗スタッフまでの一人ひとりが「経営者」になることを求められているという。柳井正社長も、店舗のスタッフも、それぞれその守備範囲は違えど、持ち場において同じ能力を必要とするという考え方だ。

「全員経営」の考え方を持つユニクロのような組織は、フラクタル構造と呼ばれる。シダの葉のように、全体とそれを構成するパーツが相似形になっており、それぞれが自律的に生きているという構造だ。

宇佐美氏によれば、アメリカの海兵隊がまさにこの構造だという。たとえ師団が分断されても、それぞれが自律的に戦うことができ、状況変化に応じて機動的に対応できる。つまり、構成員が「自律自走人材」であることが、フラクタル組織を成立させる条件でもあるのだ。

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