新型コロナの感染拡大もあって選挙の一大争点になっているのがヘルスケア改革だ。2010年に成立し2014年から導入された医療保険制度改革法、いわゆる「オバマケア」についてバイデン氏は、その継続・拡充を公約に掲げる。
国民の保険加入を義務づけ、低中所得者層の民間保険加入を補助金で後押しするのがオバマケアの趣旨。どんな持病があっても民間保険会社は契約を拒否できなくなった。バイデン陣営の説明では、制度導入前に4400万人いた無保険者は2016年には2700万人まで減少したが、トランプ政権になって140万人増えたという。
アメリカの医療保険には一般国民が加入する民間保険に加え、高齢者・障害者向けの「メディケア」と低所得者向けの「メディケイド」という公的保険制度がある。バイデン氏は公的保険の対象拡大に加え、中所得層に対する民間保険料の税額控除増大によって医療負担軽減を図る方針だ。
「医療弱者」の対策は不可避
この点、急進左派のサンダース氏らは公的医療保険を全世代に広げる「メディケア・フォー・オール(国民皆保険)」を訴えていたが、その実現には莫大な財政支出を要し、議会や民間業界の反発を伴う。「バイデン氏は急進左派の意見に耳を傾けつつ、今の制度を手直しする現実的な策を打ち出すことで無党派層の支持も得ようとしている」(渡辺氏)。
一方、トランプ氏は「オバマケアは巨額の財政負担を強いるうえ、健康でない加入者が増えて保険料負担が高まった」と批判。保険未加入者に対する罰則規定を2017年に撤廃したのに続き、完全廃止を目指している。「個人の自由を奪う保険加入義務化は憲法違反」として共和党の州知事らが制度廃止を求めている裁判も支持する。
アメリカの新型コロナ感染者と死者数が世界最多となった背景には、診療代が高騰する中で適切な医療を受けられない無保険者や不法移民など「医療弱者」の問題があるといわれる。失業率上昇に伴い無保険者が急増する恐れも強い。医療費・保険料高騰には党派を超えて国民の不満が根強く、民主党政権になっても改革は避けて通れない。
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