川崎20人殺傷から1年、殺人犯と死刑制度の問題 近年の凶悪事件を過去の判決から読み解く

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残る1件は、強盗殺人、強盗強姦などの罪に問われた住田紘一死刑囚のケース。2011年9月30日、岡山県で当時27歳の派遣社員だった元同僚の女性に性的暴行を加えて刺殺。財布を盗み、遺体を大阪市に運んで刃物で解体し、川などに遺棄した。前科は無かったものの、2013年2月に裁判員裁判で死刑判決。2017年7月に執行されている。

実はこの裁判も、一旦は控訴したものの、植松死刑囚と同じように、被告人本人が控訴を取り下げてしまっている。こちらの事件でも、控訴審が開かれていれば、死刑は回避された可能性は高い。

裁判員制度の問題点

ここにおいて、死刑は平等といえるのだろうか。松戸の「リンちゃん」の事件で、117万人の署名が集まりながら、死刑でなかったとなると、裁判員制度の本来の目的と機能が果たされているのだろうか。検察が死刑を求刑しても、被害者が1人だとはじめから回避される裁判員裁判が常態化している。

そうかと思えば、1人も殺していないのに死刑になったケースもある。

いまから25年前の1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件で、丸ノ内線にサリンを撒いた横山真人は、自分の担当路線で死者を1人も出していない。犠牲者は0人だった。

しかし、同事件は朝8時すぎに東京の地下鉄の5路線で一斉にサリンを撒く、同時多発テロだった。それで乗客や駅職員の12人が死亡している。横山は共謀共同正犯として、死亡した12人全員の責任を背負って死刑になった。

ところが、同じ事件で千代田線にサリンを撒き、駅職員2人を殺した林郁夫は無期懲役だった。

事件の2日後、オウム真理教の教団施設に一斉家宅捜索が入り、指名手配犯と一緒に逃亡していた林は、他人の自転車を乗っていたところを”自転車泥棒”で捕まる。そこで取り調べを受けていたところで、地下鉄サリン事件の実行犯であることを自白。これが事件の全容解明と教祖の逮捕につながったことから、「自首」が認められて死刑の回避となった。求刑から無期懲役だった。

つまりは、林の担当路線で死んだ2人の責任を、自分の担当路線で1人も死んでいない横山が背負って死刑になったことになる。横山は2018年7月に教祖をはじめ13人に死刑が執行されたうちの1人だった。

1年前の登戸の事件の直後には、どうせ死ぬのなら独りで死ね、という声がSNSなどにあがった。それに対して、独りで死ねということも命の尊厳を無視している、という批判もあった。

ならばこそ、死刑の適用は厳格であるべきはずである。まして、1人を殺しても罰せられないことがあっていいはずもあるまい。

植松死刑囚においては、本当に自分が正しかったのか、公の場で事件を再考する機会が失われたことは、残念でならない。

青葉容疑者については、全身の9割の火傷から一命を取り留めている。精神科への通院歴も報じられる一方で、すでに容疑を認めている。どうしてこのような事件を起こしたのか、公判で自らしっかりと語り、公正な裁きを願うばかりだ。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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