川崎20人殺傷から1年、殺人犯と死刑制度の問題 近年の凶悪事件を過去の判決から読み解く

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そこに浮かぶ奇妙な違和感。大量殺人犯は犯行を肯定しながら自ら死を選び、1人とはいえ人を殺した人物がいまも一般生活を送る。この2つの事件と裁判を結ぶ違和感の正体を、過去の裁判事例から紐解いてみたい。

千葉県松戸市で、ベトナム国籍の女児が猥褻目的で誘拐、殺害される事件が発生したのは、3年前のことだった。ベトナム人の父親が日本語で「リンちゃん」と娘の名を呼ぶ姿は広く報じられて同情を誘ったことは、印象に残る。

事件は2017年3月24日、松戸市の小学校に通うベトナム国籍の3年生女児(当時9歳)が行方不明となり、翌々日に排水路脇の草むらで絞殺体となって発見された。

同年4月14日に被害児童が通っていた小学校の保護者会の元会長で、通学の見回りボランティアに参加していた渋谷恭正が逮捕。殺人、死体遺棄で起訴されるが、裁判では起訴事実を否認して、無罪を主張していた。検察は死刑を求刑している。

この裁判で特筆すべきことは、判決までに極刑を望む約117万人の署名が集まったことだ。罪質が悪質であることは言うまでもないが、同情としても、それだけの民意が集まることは珍しい。

ところが、18年7月に3人の裁判官と6人の裁判員が下した裁判員裁判の判決は、無期懲役だった。検察、弁護側、双方がこれを不服として控訴。現在も裁判が続いている。

死刑を不服として控訴し、無期懲役になる事例も

実は、2009年に裁判員制度が導入されてから、殺された被害者が1人でも死刑判決が言い渡されたケースが4件ある。それまでの刑事司法では、まずなかったことだ。しかし、それも裁判員制度導入の趣旨でもあった市民感覚が反映されて、厳罰化が進んだものだと理解していた。

このうち3件で死刑を不服として控訴したところ、減刑されて無期懲役に変わり、そのまま確定している。

うち2件は殺人などの前科があったにもかかわらず、減刑された。もう1件は、「リンちゃん」のケースと同じで、2014年に神戸で当時6歳の女の子をアパートに誘い込み、ロープで首を絞めたうえ、包丁で後頭部を刺して殺害。遺体を解体してコンビニ袋に入れて、近くの雑木林に捨てた事件だった。裁判員は死刑判決を下したものの、職業裁判官のみで裁く控訴審で取り消され、無期懲役となっている。

次ページ残る1件は死刑判決になったが…
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