岩田健太郎「感染症の最前線で働く激しい恐怖」 コロナ禍の今「レストン事件」を振り返る

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感染症の最前線で働く人たちは、どんな感情を抱きながら働いているのか(写真:REUTERS/Susana Vera)
新型コロナウイルスの感染拡大の抑え込みに向けた必死の取り組みが各国でされている中、過去のウイルスとの闘いに関する著書が注目を集めている。1994年に出版されたリチャード・プレストン著『ホット・ゾーン』もその1つだ。
1970年代半ば、中央アフリカで発生したエボラ・ウイルスによるエボラ出血熱がアメリカ本土に上陸した際、パンデミックを抑えようと立ち上がった科学者たちの姿を追ったノンフィクションは、のちにテレビドラマ化され話題となった。当時の記録から今の私たちが学べることは何なのか。今回文庫化に伴い寄せられた神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授の解説文を掲載する。

初めて読んだのは20年前のこと

今回、解説を書くよう依頼されて本書のゲラを開いてみた。すぐに思い出した。『ホット・ゾーン』を初めて読んだのはぼくが医学生だった1990年代前半のいつかである。英語の原書で読んだか、高見氏の翻訳で読んだのか、いや、両方だったか。そこは、とんと思い出せない。

あのころ、ぼくは一介の医学生に過ぎず、感染症についてはあまりに無知だった。そのことは、数年後に沖縄県立中部病院研修医になった初日に感染症科をローテート(研修医が病院で各科を順に回って研修すること)し、日本臨床感染症界のパイオニアである喜舎場朝和先生に「お前のプレゼンは何を言っとるか全然わからん」と激怒されたことからも明らかだ。

当時のぼくは医学生的な微生物の知識や抗菌薬の知識はあったが、それが「感染症」という概念をもって形成されてはいなかったのである。

だから、そんな感染症に無理解だった医学生のぼくが『ホット・ゾーン』を初めて読んだとき、その内容を十分に理解したかというと、甚(はなはだ)心もとない。再読してみて当時気づいていなかったであろう発見が多々あった。貴重な読書体験であった。

もちろん、本書を読むのに特段の専門知識は必要ない。リチャード・プレストンの文章は活気にあふれて読みやすいし、専門書のような冗長さ、難解さはまったくない。それは日本語の訳文も同様だ。

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