深刻な情報処理技術者の不足、社会基盤を支える人材の育成を急げ
人材確保に苦しむ情報産業
国の財政支援によって育成すべきは、スーパーコンピュータのような最先端技術だけではない。表面的には見えにくいが、今や情報産業は経済社会のインフラというべき重要な存在だ。資金、生産・販売、コスト、労務人事、決済に至る企業活動のすべてが情報化され管理されている。鉄道、航空など輸送の運行制御、高速道路のETCシステム、銀行のオンラインシステム、お財布携帯など電子マネー、自動車や家電製品の電子システムなど機器の組み込みソフトに至るまで、情報産業のバックグラウンドなしに経済も社会も生活も成立しえない。
IT産業のうちシステムやソフトウェア開発等サービス関連の市場規模は5兆円(IDC調べ)。自動車産業の十分の一にすぎないが、重要性において他産業に決して劣るものではない。にもかかわらず、人材の確保が非常に厳しい環境にある。
情報処理技術者試験を管轄している独法の情報処理推進機構(IPA)の集計によれば、情報系大学出身者の半数以上が情報産業以外に職を求めている。卒業生数自体、年間わずか2万1000人にすぎないのに、である。一方で情報系学生の新卒求人は情報産業と一般企業を合わせると、毎年7000人の供給不足だ。
むろん業界内ではここ数年、人材の確保が大きなテーマとして注目を集めてはいる。大手では大学に寄付口座を開設し、3K業種という思い込みを払拭し、学生への知名度や業務内容の浸透を図ろうとしている。だが、民間レベルでは限界がある。
大学教育と現場で求められる人材との基本的な資質に開きがあるのも問題だ。単に専門知識があればいいわけではない。顧客のニーズをきちんと理解し、必要十分なプログラムを組み上げるための広い視野とコミュニケーション能力が必要だが、アカデミズムの狭い範囲の専門に埋没し、なかなかそういった人材が育ってこない。一方、ツイッターにも採用されたプログラム言語・ルビーを開発したまつもとゆきひろ氏のような特別な才能を発掘し育成するだけでは、インフラの強化にはなりえない。