今回の対応でわかるのは大学の財務力の差である。事業収支差額がプラスで、内部留保が潤沢な大学はすぐに数万円の一律給付ができる。一方で全国の私立大学の4割が定員割れという実態もある。そういう大学では奨学金を給付したうえで、一律給付も行うなど到底できない。建設工事計画を取りやめて一律給付する大学もあるほどだ。
内部留保は大規模大学と比肩できない。本学は財政が安定しているが、厳しい大学も多い。学生を救うためには、より多くの大学が実行できることにさらに知恵を絞る必要がある。
大学院生と留年生は奨学金の対象外
これから学費の支払いに窮する学生が、退学を選ぶのはあまりにも性急だ。まだ広く知られていないが、日本学生支援機構(JASSO)による学費減免、給付型奨学金の制度が導入されている。高等教育無償化政策の一環として2017年に創設され、2018年度には87億円の予算規模で実施された。2020年度の高等教育無償化法により予算規模は最大7600億円となっている。
この政策によって生活保護世帯ならば、私立大学に通う自宅外学生には学費減免として最大で年間70万円、給付型奨学金は91万円が給付される。それに準じて年収380万円以下の世帯には、これまで以上の公費支出が行われる。さらにJASSOは家計急変の場合の給付型奨学金も充実させており、実際にはかなりの部分の退学者は防げると思われる。
しかし、JASSOの奨学金で救えない層も確実に存在する。給付型奨学金を受給するためには成績と収入、両方の基準を満たす必要がある。さらに大学院生は対象に含まれない。
採用から外れる成績の基準としては、①4年以内に卒業又は修了できないことが確定している、②修得した単位数(単位制によらない専門学校の場合は履修科目の単位時間数)の合計数が標準単位数の5割以下であること、③履修科目の授業への出席率が5割以下であること、その他の学修意欲が著しく低い状況にあると認められることなどがある。つまり留年者や修得単位数が5割以下だと採用されないのだ。
芝浦工業大学では「コロナによる退学者を 1 人も出さない」を合言葉に、学生の経済的支援を目的としたコロナ対策学生支援プロジェクト募金を始めた。同大学では3 億円を目標に卒業生や教職員をはじめとして、広く個人や団体に学生の学業継続のための支援を求めている。
プロジェクト募金の使途として、当座の生活費などに困窮している学生に対する返済不要の奨学金を一人最大 50万円まで支給するほか、家計急変者のための緊急時奨学金・特別奨学金の選考枠の拡大と柔軟な対応を図っている。
JASSOの奨学金では救えない大学院生、留年者、基準単位の未修者、そしてJASSOの奨学金を受給してもなお経済的に苦しい学生たちが、この奨学金で退学を回避できることを願うばかりだ。しかし、そのためには選考において、一人ひとりの経済状況、就学意欲などを判断するという時間と手間のかかる業務が求められるだろう。それでも不本意な退学者を一人も出さないためには、実行する価値が大きい。
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