大恐慌並みの景気悪化なのに「株価上昇」のなぜ 株価と実体経済が連動しなくなってきた
オハイオ州立大学のルネ・ストゥルツ教授(金融論)によれば、2015年時点で20人以上の従業員を抱えるアメリカ企業は約60万社あったが、うち上場していたのは3600社、つまり1%未満だった。同教授は上場企業の構成変化を研究している。
大企業は財務が強く景気後退にも耐えられる可能性が高いため、株価も経済崩壊の影響を受けにくい。実際、S&P500のような株価指数は、大型優良銘柄の組み入れ比率が高い。ここ数週間、こうした優良銘柄の株価はアメリカの経済見通しとは逆方向に動いただけでなく、市場全体とは違う動きを見せた。
5社の時価総額はS&Pの2割に
マイクロソフト、アップル、アマゾン、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、フェイスブックという5大上場企業の株価は今年も上昇を続けており、投資家は、コロナ後にはこれら巨大企業の支配力がさらに強まるとみている。
ゴールドマン・サックスの分析によると、これら5社の株価が4月末までに約10%上昇する一方で、S&P500の残り495社の株価は13%下落した。マイクロソフト、アマゾン、アップルの時価総額は1兆ドルを超えるが、これら大型株の時価総額は現在、S&P500全体の5分の1と、その割合は過去30年で最も高くなっている。
「S&P500は好調だが、株高を牽引しているのは一握りの企業で、こうした企業群はコロナが逆風になるどころか、むしろ追い風になっている。実に紛らわしい状況だ」とストゥルツ教授は話す。
市場心理も、必ずしも幅広い層のアメリカ人の感情を反映しているわけではない。米国では半数以上の世帯が株式や投資信託を保有しているが、証券口座の圧倒的多数は比較的小規模だ。むしろ株式の保有は、景気後退の痛みを最も感じにくい富裕層に大きく偏っている。
「中産階級の株式保有率はかなり低い」と、ニューヨーク大学の経済学者で、アメリカの世帯純資産を研究するエド・ウルフ教授は話す。教授によれば、「株式市場の変動は、中産階級の世帯純資産にはあまり影響を与えない」。
事実、アメリカでは個人所有の株式の大部分が、ごく一握りの富裕層の手にある。FRBが発表した最新のデータをウルフ教授が分析した結果、上位10%の富裕層が時価ベースで世帯所有の株式の約84%を保有していた。上位1%が所有する株式の割合は40%に上る。