大恐慌並みの景気悪化なのに「株価上昇」のなぜ 株価と実体経済が連動しなくなってきた

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株式市場の長期的なパフォーマンスを研究してきたエコノミストによれば、経済成長が株価に影響を与えていることを示す根拠は乏しい。

「関係性は実はかなり弱い」と、金融を専門とするフロリダ大学のジェイ・リッター教授は言った。世界の経済成長と市場リターンの長期的な関係を研究してきた同教授によれば、「長期的に見れば(経済成長と株価の間には)実証できるような関係は何もない」。

中間層を増やさない現代の大企業

このような事実は秘密でも何でもない。それなのに、なぜ多くのアメリカ人が、株価は経済を測る真のバロメーターだと思い続けているのだろか。それは経済学というより歴史や文化の問題だ。

歴史家によると、経済と株価を結びつけるアメリカ的な精神の起源は、少なくとも1929年の大暴落にさかのぼる。「大暴落はトラウマに近いものをアメリカ人に与えたと考えられる」と、バックネル大学の金融史家、ジャニス・トラフレット教授は言う。

アメリカ人の多くは1929年の大暴落を目撃し、大暴落が大恐慌を引き起こしたと考えた。S&P500は1932年に底を打つまでに86%も暴落したが、質の高い経済情報は当時ほとんど存在しなかった。このため、多くのアメリカ人が心の中で経済と株価を結びつけて考えるようになったのだ。

「それが正しかったかどうかは別にして、多くのアメリカ人はそのように解釈した。そして、時にはこうした認識が現実になることもある」とトラフレット教授は話す。

1950〜1960年代には、大企業の業況と経済全体を結びつけるのは簡単だった。大企業が生み出す莫大な雇用が、中産階級の拡大を後押ししていたからだ。

例えば、ブルッキングス研究所の報告書によると、1962年にアメリカで最も時価総額が高かった2つの大企業、AT&Tとゼネラル・モーターズ(GM)は合計で120万人近くを雇用していた。これに対し、2019年に時価総額でS&P500の上位2位を占めたマイクロソフトとアップルの従業員数は28万人にすぎない。

(執筆:Matt Phillips記者)

(C) 2020 The New York Times News Services

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