大恐慌並みの景気悪化なのに「株価上昇」のなぜ 株価と実体経済が連動しなくなってきた
株式市場はますます経済的現実から離れていくように見える。
アメリカはフーバー政権以来で最悪の経済危機にひんしている。企業収益は大打撃を受けた。アメリカでは100万人以上が新型コロナウイルスに感染し、毎日数百人が死亡している。好転の兆しは一向に見えない。
しかし、株価は上昇を続けている。4月には2050万人が職を失ったにもかかわらず、S&P500種株価指数は33年ぶりの月間上昇率を記録した。数週間にわたる乱高下の後、同指数の今年に入ってからの下げ幅はわずか9.3%、コロナ禍の前につけた過去最高値と比べても下落率は13.5%にとどまる。ほとんどの投資家が「調整局面」と考える程度の下落率ですんでいるということだ。5月8日に驚くべき失業率が発表された後も、S&P500は1.7%上昇して引けた。
従来の常識に従えば、株価の下落率が比較的小幅にとどまっている理由は次のように説明できる。市場は先読みする傾向があるため、投資家にとっては第2四半期(4〜6月)の景気悪化はすでに織り込み済みであり、その後には比較的ペースの速い回復局面が訪れるという予想になっているのだ、と。連邦準備制度理事会(FRB)の対応も、株価が底割れすることはないという投資家の自信を深めた。
しかし今回のパンデミックは、一段と深いトレンドも浮き彫りにした。株式市場と庶民の生活感覚との乖離が、過去何十年と拡大し続けているということである。その背景には、経済全体の変化がある。
巨大テック企業が動かす株価指数
「ウォール街は普通の人々が生きる世界とはほとんど関係がなく、その傾向は一段と強まっている」と、ロンドンを拠点とするリベラム・キャピタルの市場アナリスト、ヨアヒム・クレメント氏は言う。
それでも市場は集団の想像力を支配し続けている。政治家から企業経営者、個人投資家にいたるまで、アメリカ人は長い間、半ば歴史的な理由から株価とアメリカ経済を同列視してきた。市場の頂点は明るい日が続くことを示唆し、谷は暗い見通しを示唆する。しかし、現在の経済の落ち込みは、市場の論理と現実世界との間に一貫したつながりがあるという幻想を打ち砕く可能性がある。
株価と実体経済が乖離する理由の1つは、株式市場の構造、つまりS&P500を構成する大企業が国内の小型零細企業などとはまったく異なる状況下で事業を展開しているという現実にある。S&P500を構成する大企業は高収益であり、多額の現金を保有し、債券市場から定期的に資金調達できる立場にある。また、こうした大企業は典型的なアメリカの同族会社よりもはるかに国際的だ(S&P500企業の海外売上高比率は約40%に達する)。