「米失業率が最悪でも株価上昇」で大丈夫なのか もう一度「暴落」する危険性はないのだろうか

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しかしその後は、経済指標や企業収益が公表され始め、市場はどの程度大幅に事態が悪くなっているのかを、具体的に数値で把握できるようになってきた。市場は「それなりに悪いのか、すさまじく悪いのかわからない」という状況は、投資判断ができず、嫌う傾向がある。それよりも、「数値で測って、着実にものすごく悪い」という方が、それなりに投資判断が付きやすく、市況が落ち着いても不思議はない。

そうした、市場は着実な悪化の方が不透明な状況より「まし」だと判断する、という現象は、アメリカで、このところの週次の失業保険新規申請件数の急増にもかかわらず、株価がしっかりと推移してきたことにも表れている。先週末の雇用統計と株価の動きも、同様だ。

雇用統計についての「別の解釈」とは?

この他にも、雇用関連諸統計の解釈に絡んで、アメリカ株の堅調な推移が説明できる点はある。たとえば、前述のように失業保険申請件数は急増しているわけだが、申請した人たちは失業保険の給付が受けられるのだから、それが所得のクッションになると言える(失業前の給与水準に対し、何割の金額の保険金が受領できるかは、州によってかなり異なる)。

また、4月分の雇用統計で注目されるのは、1人当たりの平均時給が、前月比で4.7%も急増していたことだ(3月分は0.5%増)。これは、低時給の職中心に解雇が進み、平均値が押し上がったことを示している。これを楽観的に捉えれば、高時給の職の解雇は相対的には進んでおらず、マクロ経済的には個人所得ないし消費への打撃は限定的であり、株価が堅調に推移したと解釈できる。ただし一方では、所得格差が拡大することへの不満が、アメリカの社会で、一段と強まる恐れはある。

以上述べてきたように、アメリカの経済市場や企業収益がかなりの悪化をしているにもかかわらず、同国の株価が大きく下落していない、という点は、特に不思議はないと考える。

ただ、筆者も、さすがに実態のデータがどんどん悪化すれば、株価が大きくは下落しなくとも、ある程度の調整色は広がると考えていた。現実には主要国の株価は、むしろ強調展開となっている。これは短期的には、「楽観の行き過ぎ」として警戒すべきだろう。また特にアメリカでは、株価が上昇する銘柄が、大型ハイテク株や半導体株に集中しているところも、物色の偏りとして気になるところだ。

したがって、日米等の株価動向は、短期的には軽い下押しを警戒し、長期的には楽観視している。ただ、一番安いところで思い切り買う、というのは、不可能に近いのであきらめるべきだろう。こつこつと現物を買い溜めていった方がよいだろう。また、売りから入って儲けようとするのは、リスクが高過ぎておすすめできない。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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